みずほフィナンシャルグループ(FG)の上ノ山信行グループCDTO(最高デジタルトランスフォーメーション責任者)は、DX推進における経営陣と現場の認識ギャップについて、現場が変化を後回しにするのは自然なことだと述べた。上ノ山氏は、CHRO(最高人事責任者)からCDO(最高デジタル責任者)を経てCDTOに転じた異色の経歴を持ち、DXの本質は技術導入ではなく人と組織を変えることにあると語る。
現場が変化を後回しにするのは「自然なこと」
上ノ山氏は、経営陣は3~5年先、社長は50~100年先を見据えるのに対し、現場は日々の業務や予算達成に責任を負うため、DXは「追加的な仕事」と捉えられやすく優先順位が上がりにくいと指摘。「現場で変化が後回しになるのは自然なことだと思う」と語る。
メンバーズの調査(「攻めのDX実態調査2025」)によると、「明確なビジョン・目標と共通認識」の達成度は経営陣・部長層で約73%であるのに対し、課長・主担層は50.9%と20ポイント以上の開きが見られた。
「AIツール1つでは何も変わらない」
上ノ山氏は、CDOからCDTOに役職名を変更した理由について、この2年で問いが「AIをどう業務に適用するか」から「AIでビジネスそのものをどう変えるか」に変わったためだと説明。「Transformation」の「T」を加えることで、これから本格的に取り組む意志を示したという。
みずほFGの生成AI活用は現在「点から線に移行する段階」にある。文書からスライドを自動生成するツールやアイデア創出、調査などを行う複数のエージェントツールを内製し、既に数千人規模で利用されているものもある。しかし、これらは個別のツールにとどまっており、これらを積み重ね、つなぎ合わせることでより大きな変革につなげようとしている。目指すのは点を線にし、面に広げることだ。
「AIツール1つでは何も変わらない。複数のエージェントやツールを組み合わせ、それらを適切に連携させることで、より大きな業務プロセスを変えられる」と上ノ山氏は語る。
小さな成功体験を積み重ねるアプローチ
上ノ山氏は、大規模なプロジェクトではなく、一つ一つの小さな積み上げを重視する理由について、AIの進化は早く今後も指数的に進む可能性があるため、今日できることを前提に業務改革を考えると視野が狭くなると説明。まず5年後の世界を描き、その大きな絵を持ちながら、今のレベルでできることを小さく実践し、力を蓄えながら前に進むことの重要性を強調する。
内部開発を重視する背景には、外部ベンダーに依存しすぎると変化への適応力やアジリティ(機敏性)が失われる危険性があるからだ。ただし、すべてを自前でやるべきとは考えておらず、自社データや独自ノウハウを活用する領域は内製化し、世の中にある汎用ツールの方が優れているところは外部の知見を導入する方針だ。
人と組織の変革こそ最大の課題
DX推進で最も難しいのは人の意識を変えることだと上ノ山氏は言う。現場の従業員は自分の仕事に責任感を持っており、「根本から見直そう」と言うと否定されたように感じる人もいる。また、人間は本能的に安定を求める生き物であり、変化はその本能に逆らう行為でもある。
「だから単にロジックで説明するだけでは不十分。小さな成功体験を積み重ねながら、『この方向でいいんだ』と確信を持ってもらうことが大切。それがチェンジマネジメントの本質だ」と語る。
上ノ山氏は、CHROとCDOを兼務した経験から、AI活用を進める中で問いが「ツールをどう使うか」から「会社をどう変えるか」に変わったという。会社を変えるためには人のマインドセットや組織文化まで考えなければならない。人事領域でもデジタル領域でも、今は「AI時代に人や組織はどうあるべきか」という議論が活発であり、AI導入は単なる業務改善ではなく、企業の在り方そのものを問い直すテーマになりつつあると感じている。
日本の産業全体の生産性向上を目指す
最終的なゴールについて上ノ山氏は、現時点では定量的な目標を描き切れていないとしつつも、「日本企業全体の生産性向上は避けて通れない課題」と語る。人口減少が進む中、少ない人数でより大きな価値を生み出さなければならない。企業として生き残るためだけでなく、一人ひとりが生み出す付加価値を高める必要がある。
「そのためには戦略だけでは不十分。組織や人材、業務プロセスを一体で変えなければならない。AI活用が進むほど、問われるのは技術そのものではなく、人や組織の在り方になる」と結論づけた。



