中国のエンターテインメント業界でAI(人工知能)の活用が急速に進んでいる。スマートフォンで視聴する1話数分の「ショートドラマ(短編ドラマ)」でAI俳優の起用が広がり、完全にAIでつくるテレビドラマや映画も登場し始めた。急激に押し寄せるAIの波に、業界では期待と戸惑いが交錯している。
「秦嶺青銅詭事録」のAI俳優
中国のある鉱山跡近くの田舎の町。雨が降りやんだばかりの曇り空の下で、林汐顔が演じる地質学者が、そらしていた目線を戻しながら、秦凌岳演じる主人公の元偵察兵に語りかける。「彼は多くのことを隠していると思う」
これは、中国IT大手・騰訊(テンセント)系の動画アプリで今年4月に配信が始まったショートドラマ「秦嶺青銅詭事録」のワンシーンだ。古代の墓をめぐる謎に迫る冒険ミステリーが全60話で描かれる。
シリアスな演技で視聴者を引きつける主演の林氏と秦氏。だが、2人は実在の人間ではない。AIに生成された「AI俳優」だ。
上海の制作会社が世に放ったこの作品は、配信直後からその完成度の高さに驚いた視聴者の書き込みが相次いだ。「AIってこんなにすごいのか」「このイケメン、AIには見えない」「AIはとんでもないことになりそうだ」といった声が寄せられた。
主演の2人は同制作会社と「所属契約」を結んでおり、俳優個人のSNSアカウントも開設されている。
ショートドラマ市場の拡大とAIの波
ショートドラマは、2023年ごろから中国で急拡大してきた。スマホ視聴向けにつくられた1話数分のドラマで、1シリーズ数十話から100話程度で構成される。通常のドラマより低予算で短期間に制作されるのが特徴で、市場拡大に伴って日々大量の作品が生み出されてきた。
中国の調査会社「DataEye」によると、25年には1年間で16万2千本以上の新作が配信された。ここに今、AIの波が押し寄せている。中国メディアが報じた業界団体の情報によると、AIを活用した作品の制作が加速しているという。
また、中国のテック大手「快手科技」の動画生成AIを使って、韓国人映画監督の梁益準氏が映画を制作している。完全にAIでつくるテレビドラマや映画も登場し始めており、業界ではAIへの期待と戸惑いが交錯している。



