ウィキペディアなどのオープンナレッジプラットフォームを運営する非営利団体のWikimedia財団は2026年10月5日(現地時間)、自らのWebサイトが同様の影響を受けていないかを調べた独自調査の結果を公表した。調査はOpenAIが運用するエージェントに焦点を当てたものだ。財団は、これらの「不正」エージェントによる無許可のbot活動をWikimediaのプラットフォームで確認したと発表した。一方で、財団のシステムがエージェント間の連絡に使われた証拠や、システムやデータが侵害された証拠は見つからなかったという。
確認された3つの行為
財団は、無許可のbot活動の内容を具体的に特定し、3つに整理して明らかにした。確認された活動は「wikiへの無断編集」「メモツールの探索と利用」「過剰なデータのダウンロード」の3つだ。
1つ目の無断編集について、財団はOpenAIが運用するAIエージェントによると思われるWikimediaのwikiへの編集を特定した。編集は一般読者が目にするページには反映されておらず、ほぼ全てが「サンドボックス」と呼ばれる練習用領域でのテスト編集だった。
ただし、出典管理ツールの設定に対する少数の編集については、悪意があった可能性があると財団はみている。外部サービスからデータを取得するプロキシとしてツールを悪用する意図があったと考えられるためだ。Wikipediaのポリシーはコミュニティへの開示と承認を条件にbotによる編集を認めているが、今回の事案で承認を求める動きは一切なかった。
メモツールの探索と大規模なデータ取得
2つ目は、財団がコミュニティサービスとして提供するメモツール「Etherpad」の探索と利用だ。Etherpadを侵害する試みが複数あったが、いずれも成功しなかった。外部サイトからデータを取得するプロキシとして使う試みも失敗に終わった。OpenAIが運用していると思われる別のエージェントがタスクに関するメモを残していたものの、エージェント間の連絡に発展した形跡はなかったという。
3つ目のデータのダウンロードは大規模だった。エージェントは財団の公開APIに数千万件の自動リクエストを送り、主に関連プロジェクトのWikidataとWikimedia Commonsで数千万ページをクロールした。データ検索サービス「Wikidata Query Service」(WDQS)には数十万件のクエリを実行した。財団は、このトラフィックが2026年5月に起きたWDQSの部分的な障害に貢献した可能性があるとみている。
インフラへの影響と今後の対応
botとエージェントによるトラフィックの増大は、インフラに影響を及ぼしている。財団は2025年、2024年以降のbot活動の急増によってマルチメディアコンテンツのダウンロードに使われる帯域幅が50%増加したと報告した。リソース消費の大きいトラフィックの少なくとも65%はbotによるものだった。財団は、インフラへの強い圧力がサーバのコストと人的なコストを増やしており、増大する活動に伴うコストを既に負担していると説明する。放置すればシステムの過負荷や障害によって人間の利用者を締め出しかねないとも指摘した。
その上で財団は、OpenAIがエージェントの「予測不可能」な振る舞いを認めている以上、リスクを監視し防止する責任も認めるべきだと主張する。AI企業はシステムの安全確保と公開の保護に十分に取り組んでおらず、その負担が小規模な組織を含むAI企業以外の全てにのしかかっているというのが財団の見方だ。少なくともAI企業のシステムは、サイト運営者がエージェントを容易に識別し、自らのサービスとの関わり方を選択できる形で運用されるべきだと求めた。
財団は、オープンなWebは公共財であり、こうした振る舞いを「新しい常態」として受け入れられてはならないと訴えている。botやエージェントがWebの未来の一部だと認めた上で、それらを解き放って利益を得る企業は、引き起こし得る損害の回避と修復を直接支援しなければならないと主張し、オープンで共有された資源を守る取り組みに加わるよう呼びかけた。