フロンティアAI悪用のゼロデイ攻撃対策、検知に頼る受動的防御の限界と多層防御の重要性
フロンティアAI悪用のゼロデイ攻撃対策、多層防御の重要性

フロンティアAIの進化はビジネスを加速させる一方で、サイバー攻撃の高度化を招いている。「Claude Mythos」に代表される高度なAIモデル(フロンティアAI)が悪用され、脆弱性の検出や攻撃コード生成を高速化させる手口が台頭しつつある。パッチ当ての「負のループ」に忙殺されるIT担当者が、防御一方の状況から脱却して未知の脅威に先手を打つにはどうすればいいのか。

差し迫ったセキュリティ課題に対するアプローチを学ぶ機会として、ネットワークド主催のWebセミナー「フロンティアAI悪用攻撃に先手を打つ対策を!OPSWATによる防御とは?」が2026年7月8日に開催された。同セミナーの内容を基に、本稿はフロンティアAIを悪用した脅威動向のポイントを解説し、運用負担を抑えつつ強固な防壁を築くためのヒントを紹介する。

Claude Mythosの脅威――AI悪用でハッカーのスキル格差が消失

国内のランサムウェア被害は深刻な局面を迎えている。OPSWAT JAPANの高村篤志氏によると、2026年上半期だけでも教育機関、食品大手、大手製造業の海外子会社など、サイバー攻撃によるシステム障害やデータの暗号化、情報漏えいの被害が相次いで報告されている。

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こうした脅威が急増している背景には、攻撃者側におけるAI技術の悪用と自動化がある。高度なAIモデルによって生成され、従来のシグネチャ(定義ファイル)ベースのセキュリティ対策をすり抜けるマルウェアの主な手口として、同氏は以下の4つのアプローチを挙げる。①暗号部分を変更して検知を回避する多型(ポリモーフィック)型、②自己複製のたびにプログラムのコード構造自体を書き換える変容性(メタモーフィック)型、③感覚端末の状況をAIが判断して自律的に隠蔽(いんぺい)やデータ窃取をする「PROMPTSPY」などの自律型マルウェア、④生成AIにソースコードを読み込ませてゼロデイ脆弱性を発見し、侵入用の攻撃コードを自動量産するエクスプロイト自動生成、の4つだ。

中でも大きな懸念として注目を集めているのが、Claude Mythosに代表されるフロンティアAIの悪用だ。「Claude Mythos 5」は数千件のゼロデイ脆弱性を自律的に発見・解読する能力を持つ。自律的に複数の脆弱性を連鎖させて攻撃コードを自動生成するため、防御側の時間的優位が失われるのが問題だ。従来は一連のサイバーキルチェーン(攻撃プロセス)に数カ月を要していたものが、数時間に短縮する恐れがある。高村氏は「検知後に調停するという受動的なアプローチは限界を迎えている」と強調する。

侵入前の「検知・調停」ループから脱却、ファイル無害化と予測型AIが導く新時代の境界防御

続いて登壇したOPSWAT JAPANの望月学氏は、進化するフロンティアAIの脅威に対して、同社が提案する多層防御アーキテクチャや一方通行通信による物理的分離の有効性について解説する。

望月氏は、多くのセキュリティ製品が「防御」「検知」「調停」というステップに依存していると説明する。しかしシグネチャやハッシュ値、OSの起動を担うサンドボックスを使った受動的なアプローチでは、コード構造を変化させる多型型マルウェアやゼロデイ攻撃への対処に遅れが生じるリスクがある。結果として、侵入後のログ調停や大量のアラート対応にIT担当者が忙殺され、運用負担が肥大化するのが問題だ。

同社は、IT担当者の運用負担を抑制しつつシステムを保護する手段として、ファイルが組織内に流入する経路でリスクを事前に排除するアプローチを提案する。同社のセキュリティプラットフォーム「OPSWAT」の中核となるのは、脅威を構造的に遮断する技術群だ。

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既知のマルウェアには、世界各国のアンチウイルスエンジンを30以上並列処理して検知の死角を補う「マルチスキャン」を適用する。シグネチャ更新前の検知ギャップ(未知の脅威)には、機械学習モデルによってファイルを実行せずに構造から不審な振る舞いを分析する予測型AIスキャン「Predictive Alin AI」が役立つ。同エンジン単体でのスキャン処理は、その99%が100ミリ秒未満で完了するというスピードが特徴だ。

検知のすり抜けを狙うゼロデイ攻撃には、ファイルを構造レベルで分解して悪用され得る動的要素(マクロやハイパーリンクなど)を強制除去し、安全なファイルとして再生成する「ファイル無害化」(Deep CDR)が機能する。この無害化技術は、サイバーセキュリティ評価機関のSE LabsとSecureIQLabの評価において脅威除去スコア100%を達成したほどの正確性を持つ。一連のプロセスの後段には、バイナリコードの実行レベルで動的解釈する次世代型サンドボックス「MetaDefender Aether」が稼働する。サンドボックスが検知したゼロデイ情報をPredictive Alin AIにフィードバックして再学習させることで、未知の脅威に対する実行前の予測精度を継続的に向上させる仕組みだ。

図1:OPSWATにおける「リスクを持ち込まない多層防御」の仕組み(提供:OPSWAT) ※クリックで拡大

望月氏は、ファイル経路の感覚リスクがIT環境にとどまらず、OT(制御技術)環境へ波及する懸念についても指摘した。USBフラッシュメモリを介したマルウェア感染対策には、OPSWATの専用検疫端末「MetaDefender Kiosk」を用いたファイル無害化運用の導入を推奨する。さらに同氏は「ITとOTの境界をまたぐファイル転送は、エッジ機器の脆弱性や設定不備が攻撃の標的になるため、ファイアウォールのみに依存したネットワーク分離はリスクを伴う」と語る。この問題を踏まえて、同社には光ファイバーの物理的特性を利用してITからOTへの一方通行転送のみを許可するデータダイオード製品「MetaDefender Netwall」がある。データの逆流を防止して物理的分離を維持することで、境界機器の脆弱性を起点に停止や安全リスクへ直結する攻撃チェーンを遮断する設計だ。

限定されたリソースでの多層防御実装を支える支援体制と技術活用の展望

ネットワークドの伊藤裕真氏(ネットワークド マーケティング本部 事業推進部 セキュリティ課)は、リソースや専門人材不足に悩む企業が高度な多層防御を運用するための、同社の包括的な支援体制について紹介した。OPSWAT製品導入前の検証フェーズに向けて、同社は「OPSWAT製品 PoC/PoV支援サービス」や、製品構築手順を実機ベースでレクチャーする「ハンズオンサービス」などの無償技術支援を用意する。本番運用後はヘルプデスク「TEC-World」が障害の切り分けや対策の提案を担い、IT担当者の運用負担を補完する。OPSWAT社(東京都世田谷区)のショールームでは、実機を用いた動作確認や提案相談に応じている。

脆弱性発見や攻撃自動化に特化した高度なAIモデルの台頭は、IT担当者からパッチ当てのための時間的優位を奪い去った。重要な情報資産とITインフラを守るためには、検知ベースの受動的な防御だけでなく、システム内にリスクを持ち込まず、流入するファイルを強制的に無害化するという、構造的に先手を打つ多層防御モデルへの移行が不可欠だ。ネットワークドの検証サービスや実機環境を活用して、自社のファイル流通経路における死角の可視化と対策に着手することが現実的なアプローチになるだろう。