Windows 11でAIアシスタント「Claude(クロード)」を業務に活用する方法を紹介する本連載。前回はハルシネーションの仕組みと確認ポイントを取り上げた。今回は、長いPDF文書の扱い方に焦点を当てる。
契約書や仕様書、報告書といった文書はページ数が多く、専門用語や条文番号も多いため、必要な箇所を探すのに時間がかかる。Claudeに読み込ませれば、要点の把握や検索を大幅に短縮できる。実際に公開されている契約書と仕様書のサンプルを使い、具体的な質問方法を見ていく。
PDFはそのままClaudeに渡せる
Claudeはテキストや画像だけでなく、PDFファイルを直接読み込ませる機能を持つ。使い方は簡単で、チャット入力欄の「+」アイコンをクリックしてPC内のPDFを選択するか、ファイルをチャット画面にドラッグ&ドロップすればよい。ファイルが添付されると、Claudeは内容を読み込んだ上で回答を生成する。
文書を添付したら、知りたいことを日本語で伝えるだけでよい。目的を明確に伝えるほど的確な回答が得られやすい。
契約書の要点と条文を素早く確認する
経済産業省が公開している「委託契約書フォーマット(概算契約)」は、同省が実際の委託契約で使用するひな型で、数ページ程度の分量だ。このPDFをClaudeに添付し、いくつか質問を試みる。
契約書の概要を把握するには、次のように質問する。
「この契約書は、どのような当事者間のどんな内容の契約ですか。簡潔にまとめてください。」
筆者の環境では、次の回答が得られた。
「この契約書は、経済産業省(甲)と受託事業者(乙)の間で結ばれる『委託契約』の標準フォーマット(概算契約用)です。■概要 - 当事者:甲=経済産業省(支出負担行為担当官)、乙=入札等で選定された受託者 - 契約の性質:経済産業省が実施したい事業(調査・研究・システム開発等)を、外部の事業者に委託して実施させるもの。委託金額を『概算払い』で先に受け取れる仕組みを含む点が特徴(通常の精算払いだけでなく、業務完了前に概算払請求書で経費を請求できる) ■主な規定内容 1. 業務遂行義務:乙は仕様書(実施計画書)に従って業務を実施し、完了期限までに納入物を提出する 2. 知的財産権・著作権:新たに生じた知財・著作権は原則甲に無償で帰属・譲渡される 3. 再委託:原則禁止だが、承認や一定条件を満たせば可能。履行体制図の提出・管理が必須 4. 検査・支払:納入物の検査→実績報告書の審査→支払額確定→精算払(または概算払)という流れ 5. 各種管理義務:帳簿整備、情報セキュリティ対策、個人情報等の適切な取扱い、取得財産の管理など 6. 契約解除・違約金:談合等の不正行為、暴力団関与、契約違反があった場合の解除条項や違約金(委託金額の10%相当)を規定 7. 様式集:計画変更承認申請書、再委託承認申請書、完了報告書、実績報告書、各種請求書など、契約履行過程で使う様式(様式第1~11)が添付されている つまりこれは、官公庁(経産省)が民間事業者に業務委託する際の、標準的な契約条項+提出書類様式一式という位置づけの文書です。」
続いて、乙(受託者)に課されている主な義務を聞いてみる。
「乙(受託者)に課されている主な義務を要約し、箇条書きで教えてください。」
Claudeは次のように簡潔にまとめる。
「- 業務遂行:仕様書に従い業務を実施し、期限までに納入物を提出する - 知財・著作権:第三者権利の処理は自己責任で行い、新たに生じた知財・著作権は無償で甲に譲渡する - 再委託:全部委託は禁止。一部再委託は原則禁止で、承認等が必要。再委託先の行為にも全責任を負う - 報告義務:計画変更、業務完了、実績等について、随時甲に承認申請・報告を行う - 経理・財産管理:帳簿等を整備・保存し、取得財産を適切に管理する - 情報管理:情報セキュリティ体制を整備し、個人情報等を適切に取り扱う(漏えい時は報告) - その他:無断公表の禁止、債権譲渡の禁止、反社会的勢力の排除、人権尊重の努力義務」
再委託に関する規定がどこにあるか、概要も含めて聞いてみる。
「再委託に関する条件は第何条に書かれていますか。概要も含めて教えてください。」
Claudeは、再委託に関する主要な規定は第7条であることに加え、全部再委託を禁止する第6条や履行体制の届出を定めた第8条など関連条文も整理して示した。また、再委託は原則禁止だが一定の条件を満たせば例外的に認められることや、再委託先の行為について受託者が責任を負うことなど要点も簡潔にまとめた。
条文番号まで含めて回答してもらうと、該当箇所を自分でも確認しやすい。ただし、契約書の解釈誤りはトラブルに直結するため、Claudeは「確認すべき箇所を探す」ための補助として利用し、最終判断は必ず原文で確認したい。
仕様書から必要な要件を探し出す
次に、仕様書の例として、デジタル庁が公開している「令和7年度 デジタル PMO の運用・保守業務一式調達仕様書」を取り上げる。これは実際の入札案件で使われた本物の業務仕様書で、25ページ以上にわたり作業内容、成果物、セキュリティ要件、入札参加資格など多岐にわたる項目が記されている。
このPDFについてClaudeに質問する。長い文書の場合、全体の要約より知りたい項目をピンポイントで尋ねる方が効率がよい場合がある。入札に必要な実績を知りたいなら、次のように尋ねる。
「入札に参加するために必要な実績はどのようなものですか。」
Claudeは、「8.2 受注実績」に記載された入札要件として、過去3年以内のWebアプリケーション構築、大規模データベースシステムの設計・開発、官公庁などの番号制度関係システムの実績が必要だと整理した。あわせて公的資格・認証や共同入札に関する項目も案内している。
次のような質問も可能だ。
「情報セキュリティに関する要件は第何章にまとまっていますか。」
Claudeは、情報セキュリティに関する記述が第6章にまとまっていることに加え、具体的な要件を確認するには別文書の「要件定義書(デジタルPMO)」も参照する必要があると回答した。
このように、該当箇所を探すだけでなく、関連文書や追加で確認すべき事項まで示してくれる場合がある。長い仕様書では、まず必要な情報の場所を特定し、そこから質問を重ねて深掘りする使い方が有効だ。
質問の仕方を工夫して精度を上げる
長い文書を効率よく読み解くには、質問の仕方にコツがある。3つのポイントを紹介する。
一度に一つのことを聞く
複数の質問を一つの文章に詰め込むと、一部の回答が抜け落ちたり内容が混ざったりすることがある。上の例では、「入札要件とセキュリティ要件について教えてください」とまとめて聞くより、まず入札要件、次にセキュリティ要件と分けた方が回答の精度が安定しやすい。
該当箇所を明示させる
回答を求める際に「該当する章番号やページも示してください」と一言添えると、Claudeが根拠とした箇所を照らし合わせやすくなる。このひと手間は、ハルシネーションのリスク回避にもつながる。
目次から読ませる
分量の多い文書では、いきなり細部を尋ねるのではなく、「まず目次を要約してください」と伝えて全体像をつかんでから質問を重ねると、途中の項目を読み飛ばされにくくなる。
使う前に知っておきたい注意点
契約書や仕様書をClaudeに読み込ませる際は、注意点がある。
まず、社外秘の情報や個人情報を含む文書を安易にアップロードしないこと。今回使用したサンプルはいずれも公開情報だが、実際の業務で扱う契約書には取引先の機密情報が含まれることも多い。
次に、モデルの種類にもよるが、あまりに長い文書を一度に読み込ませると後半部分の把握が甘くなることがある。また、数字や固有名詞、条文番号といった情報は、前回紹介した通りハルシネーションが起きやすい箇所でもある。契約金額や日付などの重要な情報は、必ず原文と突き合わせて確認する習慣を持とう。
契約書や仕様書は、人間にとって読むのに時間がかかる文書の代表格だ。Claudeを活用すれば、膨大な文書でも重要なポイントを短時間で把握し、必要な箇所へ素早くたどり着ける。ただし、AIはあくまで参照すべき場所を見つけるための道具として使い、最終的な確認と判断は自分自身で行うことを忘れないようにしたい。
長いPDFを読む時間をゼロにすることはできない。しかし、「○○はどこに書かれているのか」を数秒で探せるようになるだけでも、契約書や仕様書を扱う仕事の効率は大きく変わる。



