少子化で国内の野球人口が減少する中、女子の競技者は増加している。軟式と硬式の違いはあっても、ボールを追う気持ちは変わらない。選手たちの情熱が女子野球の広がりを支えている。
平均年齢40歳超のクラブ、還暦選手も現役
東京・多摩地区で活動する女子軟式クラブ「Beams」は、18人のメンバーの平均年齢が40歳を超える。ソフトボール経験者を中心に、15年ほど前に結成された。
チーム最年長で今年還暦を迎えた関原芽久美さんは、試合でヒットを打つ現役だ。「若い子と一緒に長所短所をかばいあってできるのがいい。女子野球が知られてきたので、あと10年くらいは続けたい」と話す。
裾野を広げた大会、高校生全国大会も増加
女子野球人口が今ほど多くなかった時代、小学生で始めても中学生でプレーの場に恵まれず、やめざるを得ない子供たちも多かった。競技者増のきっかけは、2013年に始まった小学生女子の全国軟式大会「NPBガールズトーナメント」だ。その子供たちが継続的に野球ができるよう、16年から中学生女子の全国大会も始まった。
こうした世代の増加が裾野となり、高校生硬式の全国大会決勝が甲子園球場や東京ドームで行われるようになった。全日本女子野球連盟の山田博子会長は「学童や中学の選手がいるから私たちがある。こちらは硬式、あちらは軟式という感覚はない」と話す。
47歳のエース、大会が人生の中心
全日本女子軟式選手権で優勝6回のクラブチーム「ダラーズ」(石川県)には、中学生から40代までの選手が集まる。47歳で投打の主力の坂下翠さんは、大学軟式で日本一になり、卒業後も野球がやりたくてチームをつくった。女子世界大会の日本代表で優勝経験もある。
8月の全日本選手権でも連日のマウンドに立ち、「毎日走ってジムで鍛えて、この大会が人生の中心です。上達していく若手から力をもらって自分も頑張れる」と話す。
女子部員としての経験、大学で硬式へ
明治大学で創部5年目の女子硬式野球クラブのエース、柴田優衣さん(2年)は小学生で野球を始め、秋田県立本荘高の軟式野球部でただ一人の女子部員だった。「女子硬式のある高校も考えたけれど、野球も勉強もどちらもやりたくて地元の学校を選んだ」。規定で女子は公式戦に出場できないが3年間頑張り、女子の硬式野球部があることを知って明治大を目指した。将来は広告系の職業に就きたいという。「女子で野球をやっていると話すと驚かれる。だからそれが当たり前になるように自分が広めたい」
日本の女子野球は、来年に決勝ステージが行われるW杯で8連覇を目指す侍ジャパン女子代表が活躍する。ただ、就職や結婚、出産などの節目で野球が続けられなくなり、チームの消滅につながることもある。
全日本軟式野球連盟は、選手の目標となる大会を再編すべく、傘下の団体と共催していた女子の大会を引き継いで来年度から「一般」(原則として高校生以上)の大会を新設し、既存の小、中学生の大会と併せて各世代の全国大会を運営していく。吉岡大輔事務局長は「軟式から硬式を経て、また軟式に戻ってくる選手にも、ずっと軟式で続けたい選手にもレールが敷ければそれがひとつの生涯構想となる」と話す。
楽しくなければ続かない、環境整備も進む
同連盟によれば、Beamsやダラーズのような女子の一般クラブは増加傾向にある。ダラーズは「野球を全力で楽しむ」をモットーに世代交流の大会を毎年行うなど、地方から女子野球を発信する。吉田典宏監督は「楽しくなければ続かない。試合中も(応援で)歌ったり踊ったり、表情を出すのが女子野球。そこは男子と違っていい」と話す。
Beamsの創設時からのメンバー、北川麻紀さんは「社会人になって好きな野球を始めて、気がついたら50歳になっていました。子供ほど年が離れている相手でも負ければ悔しい。刺激をもらえて、もっとうまくなりたいと思います」と語る。
軟式野球では河川敷のグラウンドなども使う女子選手にとって、着替え場所やトイレが十分でない現状は切実な問題だ。高校生の提案をきっかけに、企業との共同開発で生まれた商品がある。中京大中京高女子軟式野球部(名古屋市)の生徒が、千葉県柏市の野球用品メーカー「フィールドフォース」を訪れて提案したのは2023年春のこと。同社は野球用ネットの技術を生かし、形態安定のワイヤ製フレームに防水性で紫外線カットのシート生地、支柱も備えた一辺2メートルの「簡易更衣室テント」を作った。吉村尚記社長は「採算面を考えると一歩を踏み出す勇気がなくなる。提案から商品化まで半年でした」と振り返る。
複数人で使えて折りたたんで持ち運べる。現場での組み立ても簡単で、2万5000円で売り出すと追加生産が必要なほど注文がきた。同校野球部の土井和也監督は「着替え以外に熱中症対策など用途は広い。女子野球を発展させるためにもハードの面はまだまだ課題です」と話す。
他の動きもある。全日本女子野球連盟が進める「女子野球タウン認定事業」の自治体では、球場ベンチ裏のトイレを女子も使えるように改修や工夫が行われている。また、主要大会で球場に託児室を作り、審判や運営スタッフなどが親子で会場に来られるための取り組みも行われている。
日本野球協議会の調査によると、硬式、軟式を合わせた日本の男女の野球人口は2007年の161万3156人が24年には87万8963人と、73万人余り減少した。その中で女子は増加し、硬式の競技人口は15年の1519人が25年には3561人となった。各統括団体の資料から推計した女子の競技者数(25年、硬式と軟式の計)は2万2300人余りで、この10年近くで約1・4倍に増えた。各連盟に登録していないチームも含めれば、数字はもう少し上がると推定される。



