ラジオのプロ野球中継の老舗「ニッポン放送ショウアップナイター」が今年、60周年を迎えた。選手一人一人の活躍と球場の熱気を伝え、連日の中継を無事送り出すために、アナウンサーや技術スタッフらはどんな準備をして本番に臨み、中継を支えているのだろうか。7月中旬、ヤクルト対巨人戦の中継開始を控えた神宮球場(東京都新宿区)の放送席を訪ねてみた。
入念な準備と放送席の様子
バックネット裏スタンドにある放送席。午後4時過ぎ、既に着席した実況の煙山光紀アナウンサー(64)の手元には、幾重もの紙がある。A4判に詰め込まれた各選手のデータは「けがや今の状態、1軍のマウンドは何日ぶりとか、最近の談話とか。6月以降の打率、この投手には今年何安打とかの相性も書き込んでいます」と煙山アナ。この日の最高気温もチェック中で、「今年初めての猛暑日かもしれないので、しゃべり出しに使えればと、確認していたんですよ」と語った。
解説の若松勉さん(79)=元ヤクルト監督=も放送席に入り、グラウンドに向かって左から若松さん、煙山アナ、寺尾真介ディレクター(50)の3人が座ると、横幅ぎりぎりの狭さだ。3人のすぐ後ろには、球場の音を集めて調整するミキサーとその大きな機器が控える。ベンチの声などを伝える情報アナも出入りする。両チームのスターティングメンバー表が配られ、午後6時前、番組開始。「少し雲が所々浮かんでいますが、青空の下、まもなくプレーボールを迎えようとしています。今日は東京は最高気温34.7度まで上がりました。そしてジャイアンツとヤクルトの3連戦、ヤクルトが3位、2位巨人を2.5ゲーム差で追うどちらも負けられない、ゆずれない3連戦が…」と実況が始まった。
ミキシングの機微と番組名のルーツ
放送席の前にガラスなどの遮蔽物はなく、スタンドのどよめきや鳴り物の音が直に伝わってくる。2023年4月23日にはファウルボールが飛び込み、解説の里崎智也さん(元ロッテ)が素手でキャッチ。目撃した観客から「里崎コール」が起きた。「お客さんとの距離は神宮球場が一番近い」と寺尾ディレクターは話す。
観客の声や打球音を拾うマイクは7本あり、これらに実況、解説の音声を加えてバランスを取るのがミキサーの仕事だ。テレビと違って映像がなく音声だけのラジオでは、このバランスが球場の〝波動〟を伝える大きな役割を果たす。ニッポン放送放送技術部の仁井田雅俊副部長(56)は「例えば、けがから復帰したばかりの選手の名前のアナウンスは音量を上げたり、昔のベイスターズなら抑えの佐々木(主浩)のアナウンスを必ず上げてからCMに行ったりしていた」とミキシングの機微について語る。「でも、技術的には現場から本社まで無事に回線をつなぐことが一番大事。地方球場でも米国のメジャー中継でも、回線が通った時点で、もう9割ぐらい終わった感じがします」と述べた。機材トラブルがあっても、試合開始の2時間前に回線チェックを終えていれば対応できるという。
「ニッポン放送ショウアップナイター」は昭和41年に放送を開始。番組名は、米メジャーの試合を見た当時の社員がエンタメ性の強い興行に感銘を受け、「ラジオの野球中継もショウアップされたものにしよう」として付けた。檜原麻希社長は「番組が60年も続いてきたのは、先輩が付けてくれたタイトルを基に実況スタイルを確立し、それを継承してきたことに尽きる。プロ野球はいろんな変遷をしつつも、米メジャーで多数の選手が活躍できる日本のプライドコンテンツになった。中継を続けてこられた環境に感謝し、これからも引き続きお届けしたい」と話す。
実況アナウンサーのこだわりと職業病
「ショウアップナイター」で長く実況を務めるフリーアナウンサー、松本秀夫さん(65)は、「ショウアップナイター」を初めて聴いたのは多分中学生の頃で、聴いて衝撃だったのは、解説の関根潤三さん(元ヤクルト監督)と深沢弘アナウンサーの丁々発止の掛け合いで、野球中継にこんなに笑い声が入るのかというくらい愉快な放送だったのを覚えていると振り返る。
ニッポン放送に入って最初に中継を担当したのは、スポーツ部に異動して3週間ちょっとの1987年7月24日。当時は「TBSエキサイトナイター」がライバルで、ショウアップナイターは「キレと迫力」が売りだった。「打った、ファウル」というふうにパンッと切るのがショウアップナイター流で、語尾を伸ばさない。「第3球、投げました」の「た」とボールが投手の手を離れる瞬間を絶対に合わせろと。0.4秒後にパーンとミットの音が入って「直球ストライク」。そのキレが臨場感を伝える上では大事で、選手が一流のキレのある動きをしているから、それに即したキレのあるしゃべりをということだったんだと思います、と松本さんは語る。
実況の準備は、前日の6試合分のデータをノートに全部書くのを毎日1時間半くらい、朝早くにやっている。もう39年ですね。本番前には「らりるれろ」「まみむめも」の発声練習を必ず。口の回りと喉、それから頭の回転が実況の3大要素だと思っている。頭の回転は、例えば解説者とのやりとりでパーンと言葉が出てくるか。少しでも血の巡りをよくした方がいいかと思って、体操も直前にやっている。コーヒーは、飲むとトイレに行きたくなるのでだめで、試合が始まるとなかなか行けないからだ。実況アナウンサーの職業病で、尿管結石が多いんですよ。トイレに行かないように水分を控えるのがよくないのかもしれない、と松本さんは話す。
スペシャルウィークの放送予定
ショウアップナイターは8月25~30日をスペシャルウィークとして放送。前半はヤクルト対巨人(神宮球場)、後半は阪神対巨人(甲子園球場)のナイター6連戦を実況生中継する。解説者は25日=山本昌、26日=真中満、27日=里崎智也、28日=岡田彰布・江本孟紀、29日=鳥谷敬、30日=谷繁元信の各氏。



