大阪市城東区の中井のどかさん(43)は、20年以上前から水泳指導者を務め、2019年、健常者と障害者の出張水泳教室「なかい水泳予備校」を設立した。複数の指導者がおり、生徒は約300人。生徒宅近くの市民プールなどで、マンツーマンで教えている。生徒の約6割は、身体や知的障害者だ。
脳性まひで体を動かすのが難しい子や、発達障害に多いとされる「感覚過敏」のため、ゴーグルや水泳帽の着用に時間がかかる子もいる。
開いたきっかけは約10年前
教室を開いたきっかけは約10年前。当時勤務していた水泳教室で、発達障害の子を持つ母親から「集団行動が難しいとして、他の水泳教室で入会を拒否された」と聞いたことだった。「水泳を習えない子をなくしたい」という気持ちを行動に移した。
プールでは、息継ぎが難しい子はあおむけにして頭の後ろを支える。車いすの子はスロープを伝ってプールに入り、抱きかかえて降ろす。水泳は自分のペースで取り組める点が、障害者に向いているという。
「できた」がうれしい瞬間
「指導は大変ではないですか」と聞くと、中井さんは「大変だと思ったことはない」ときっぱり。「生徒が『できた』とうれしそうにする瞬間がやりがいです」と笑顔で話した。
重度の知的障害がある男児の成長
神戸市中央区の田山聖子さん(47)の長男(12)は、4年前から指導を受けている。重度の知的障害で、初対面の人とのコミュニケーションや外部の施設に足を踏み入れることが難しい。当初は、水中に体を浮かせる練習で、足をばたつかせて嫌がった。中井さんは一緒に水中を歩き、落ち着けば挑戦することを繰り返した。すると徐々に信頼関係ができ、前向きに取り組めるようになった。
水に顔をつけられなかった長男が、水中で体を浮かせられるようになり、田山さんは成長を感じている。飲食店に連れ出しても泣き出すことが多かったのに、ファミリーレストランで食事ができるようにもなった。田山さんは「できることが増えて自信が付き、いい変化が生まれた」と喜ぶ。
指導者不足と大会の現状
中井さんは「重度障害者にスポーツを指導できる人が、各地に増えてほしい」と訴える。笹川スポーツ財団によると、重度障害者に対応できる指導員は、政令市などにある障害者スポーツセンターにはいるが、市民プールなどの一般公共施設には広がっていないのが現状だ。
横浜市では7月11、12日、障害者と健常者が一緒に競う「インクルーシブ水泳競技大会」が開かれた。2022年から5回目で、全国から約700人が参加した。一方で、こうした大会は各地域ではまだまだ少ない。中井さんは「指導者が増え、障害者の地元でも大会があれば、活躍できる場が広がる」と望んでいる。
厳しい暑さが続く中、誰もが気軽にプールを楽しめる環境が整ってほしいと感じた。



