今季限りで現役を引退する松江市出身のプロテニスプレーヤー、錦織圭選手(36)。米フロリダ州にある世界最高峰のスポーツ名門校「IMGアカデミー」テニス部門ヘッドコーチで、親交が深い佐藤悠史さん(38)は「アジアのテニス文化を世界水準に引き上げた功労者。感謝しかない」と、出場予定のジャパンオープン(東京、本戦30日~10月6日)での再会を心待ちにしている。
ベトナム料理店での引退告白
今春、IMGアカデミーでの練習後に2人で訪れたベトナム料理店。佐藤さんはフォーを口へ運ぼうとした時、錦織選手の言葉に箸を持つ手が止まった。「今年で引退しようと思っているんです」。青天の霹靂だった。頭の整理がつかず「まずは一口、食べよう」と声をかけると、錦織選手に「不器用か」と突っ込まれ、場がなごんだ。
長年の親交と功績への思い
出会いは、佐藤さんが高校2年の時、テニスキャンプ生としてIMGアカデミーの練習に参加したジュニア時代だが、この時は深い交流はなかった。米フロリダ州の大学に進んで男子テニス部に所属し、卒業後にIMGアカデミーに入社して錦織選手と再会。以後、公私にわたり親交を深めた。準優勝した2014年の全米オープンも間近で声援を送った。
「グランドスラムで優勝していないし、世界ランク1位になったわけでもない。これぐらいの選手だったのか」。錦織選手がベトナム料理店でぽつりと口にした言葉が胸に染みた。ここ数年はけがに泣かされ、世界ランキングも大きく下げた。それでもコートに立ち続けたのは「本気で世界1位を目指していたからなんだと、改めて思った」と佐藤さんは語る。
最後の雄姿と引退後の展望
引退表明後、8月の全米オープン予選に向かう錦織選手の練習量には目を見張った。本戦出場は果たせなかったが、佐藤さんは最後の大会にかける思いを感じる一方、「テニスをすごく楽しんでいるように見えた」と振り返る。
今月10日(米国東部時間9日)。IMGアカデミーのテニスコートで、練習に励む錦織選手の姿があった。「今日がここでやる最後の練習じゃない?」と問いかけると、「現役ではね」とポツリ。日本からジュニアの選手が来ればラケットを交え、惜しみなく助言する。「素晴らしいメンターシップ(育成支援)。それはずっと変わらない」と佐藤さんは話す。
佐藤さんは、ジャパンオープンで錦織選手をたたえるセレモニーに出席する。「テニスを見たことがない人がテニスファンになるような選手。私もその一人」。形勢が不利でもフルセットにもつれ込む試合での勝率が高く、「最後までワクワクさせてくれる」とかみ締めるように語った。
「圭君は、自分の成績を超える選手の育成に少しでも関わることができたらいいと言っていた。何かしらの形でまた戻ってきてくれるんだと思うと、心にあく穴も埋められそうです」。引退後の錦織選手へ思いをはせながら、最後の雄姿を目に焼き付ける。