金髪・ネイルOK!甲南大女子短距離が躍進する理由とは
金髪・ネイルOK!甲南大女子短距離躍進の理由

陸上女子短距離界で甲南大が存在感を高めている。男子100メートルの元日本記録保持者である伊東浩司さん(56)が顧問を務め、2021年東京五輪代表で現在はコーチを兼ねる青山華依(23)(ミキハウス)、200メートルの日本記録を持つ井戸アビゲイル風果(25)(東邦銀行)ら多くのトップ選手を輩出。神戸市内の練習拠点に足を運び、強さの源泉を探った。

伸び伸びした環境が合う

7月中旬、神戸市東灘区の甲南大六甲アイランド体育施設にある陸上グラウンド。午前9時になると部員たちが集まり、ウォーミングアップが始まった。流行曲をBGMに流しながら行う練習の合間に、笑い声が飛び交う。髪を金色に染めた選手もいれば、華やかなネイルをしている選手も。「体育会系っぽくないでしょう。伸び伸びした環境が今の子たちには合っているのかもしれない」。離れて練習を見守る伊東さんは、くすりと笑った。

指導スタイル一新

甲南大女子陸上部は02年に6人で走り出し、18年から男子と分かれて部となった。当初から自由度が高かったわけではない。伊東さんは当時の方針を「練習量が多くて厳しく、(上意下達で)一方通行の指導だった」と振り返る。雰囲気が大きく変わるきっかけは21年の青山の入部だった。青山は大阪高時代に日本選手権100メートルで入賞した実力に加え、「陸上でも美でも一番を目指す」と公言する個性の持ち主でもあった。「今のやり方では彼女はつぶれますよ」。伊東さんは青山の高校の先輩である当時の女性コーチから、そう助言された。

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選手時代から強豪チームの厳しい環境でもまれてきた伊東さんは青山と接する中で、選手の気質と時代の変化を実感。個性を生かし、やる気を持って競技に打ち込む方法として指導スタイルを一新した。髪の色などファッションに制限があった部内ルールを撤廃し、一人ひとりと対話を重ねて自主性を重んじた。

実績と独自メニュー

青山は21年東京五輪で400メートルリレー代表となり、その後もトップ選手として活躍。女子陸上部は23年に日本インカレ100メートルで表彰台を独占し、400メートルリレーでは同年から2連覇を達成するまでに成長を遂げた。24年の日本選手権100メートルで6位入賞した社会人1年目の奥野由萌(22)(スズキ)は「おしゃれに制限がないことも入部の決め手だった。縛られない環境がモチベーション維持にもつながった」と明かす。

もちろん、自由度の高さだけで強豪校となったわけではない。男子100メートルで一時代を築いた伊東さんの理論を基に作られたメニューは独特だ。約4時間の練習で、実際に走る時間は30分に満たず、ミニハードルなどを使った動き作りに2時間以上を充てる。少し腰を浮かせたきつい体勢でスターティングブロックから走り出したり、重りを載せた器具を押したり。最後は短距離走における「エンジン」と呼ばれる尻周りを鍛える筋力トレーニングで締める。伊東さんは「たくさん走ればいいのではなく、走るまでの動作を作り上げることが重要」と話す。

生成AIも活用

さらに昨年からは、メニュー作成に生成AIを活用し始めた。選手個々の状態や試合までの日数、これまで取り組んだメニューなど細かな情報を3種類の生成AIに入力し、それぞれを見比べ、最適な練習の組み合わせを考える。医学やトレーニングの情報が日々アップデートされる中、「自分の経験や学びは古い知識である可能性がある。『去年はこのくらいやったのに』というような、指導者としての暴走を止めることにもつながる」と狙いを説明する。

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部員全員がスカウト

多くの強豪校は原石の高校生を発掘するスカウトを置くが、甲南大では30人の部員がその役割を担う。インスタグラムなどのSNSで情報を発信し、高校年代の大会に足を運んで選手と話し、個性が部の雰囲気に合うかどうかを見極める。青山は「部員が部の説明をすることで、入ってからのギャップが生まれない。楽しみつつ競い合える環境が一番の魅力」と話す。大学生の自由な感性と、変化を恐れない指導者の知見。魅力的な組み合わせが新風を吹き込んでいる。

おしゃれは発信手段に

アスリートがおしゃれに気を使うことはかつて、「競技に集中できない」などと否定的な意見も少なくなかった。近年は競技や自分自身を発信する手段として広まり、スポーツの魅力の一部となっている。今年のミラノ・コルティナ五輪フィギュアスケート女子で金メダルを獲得したアリサ・リュウ(米)は、金と黒のストライプという髪色で話題を呼んだ。フェンシング女子で2024年パリ五輪銅の江村美咲(立飛ホールディングス)は、ミス日本の特別賞を受賞するなど競技の枠を超えて注目されている。陸上女子短距離では、昨年の世界選手権東京大会でシェリーアン・フレーザープライス(ジャマイカ)が国旗と同じ色の髪で登場。女子走り幅跳び日本記録保持者の秦澄美鈴(住友電工)は「大事なルーチン」というほどネイルにこだわる。男子でも、パリ五輪100メートルを制したノア・ライルズ(米)がレースごとに漫画や国旗をあしらったネイルでファンを楽しませている。