6月21日に行われたサッカーW杯北中米大会の日本対チュニジア戦で、日本代表の上田綺世選手がループヘディングシュートでダメ押しの4点目を挙げると、中国・上海にある満席のスポーツバーで中国人サッカーファンたちが狂喜乱舞した。
日中緊張の中での応援
中国は、日本代表サポーターが育ちやすい場所とは決して言えない。日中間では歴史的な恨みが常にくすぶっており、昨年対中タカ派の高市早苗首相が就任して以来、特に緊張が続いているからだ。
だが、スポーツバーに集まった青いユニホームを着た数十人の中国人サポーターたちは、大画面に映し出される日本代表選手の一挙手一投足に釘付けになっていた。彼らの日本代表への愛は、昔からのもので、政治とは完全に切り離されたものだ。
1990年代生まれの世代
このサポーターグループの代表を務めるファンさん(男性)は、「私たちの世代、つまり1990年代生まれの中国人の多くは基本的に、『キャプテン翼』をはじめとする多くの日本のアニメを見て育った」と説明。
「さらに重要なのは、私たち(日本と中国)はいずれもアジアの一員であるということだ。今の日本代表は、アジアサッカー界の誇りであり栄光を体現していると言える」と付け加えた。
中国代表がW杯本大会に出場したのは、日韓が開催国枠でアジア予選を免除された2002年日韓大会の1度きりで、3戦全敗、無得点に終わった。国際サッカー連盟(FIFA)ランキングも、日本がアジアトップの16位であるのに対し、中国は91位となっている。
日本のサッカーエコシステム
長年の日本代表ファンで、このテーマに関する著書もあるフー・ジンユー氏(男性)は、日本には若手の育成やファン文化を支える近代的なサッカーの「エコシステム」が存在しており、今の日本代表は「欧州レベルの競争力」を備えていると指摘。
対照的に「中国サッカー界はいまだもがいており、何が正しい道なのか分かっていない状態だ」と述べた。
ファンさんのサポーターグループのメンバー、ジャスパー・スンさん(男性)はAFPに対し、「中国のサッカーは、ますます閉鎖的になっており、以前ほどオープンではなくなっている」と不満を漏らした。
上海は「比較的オープンマインド」
21日、試合終了のホイッスルが鳴り響くと、ファンさんのサポーターグループは大きな日本代表の応援用フラッグを取り出し、バーの前で飛び跳ねたり歓声を上げたりしながら写真撮影をした。
他の中国人から敵意を向けられたことがあるかを尋ねると、ファンさんもスンさんも一笑に付した。
「確かにそういう(敵意を向けてくる)人もいるが、個人的にはあまり気にしていない」とファンさん。
スンさんは、他の地域の中国人が懸念を抱く理由は分かるとしつつ、上海は「比較的オープンマインドでインクルーシブだ」と語った。例えば、2024年にW杯アジア最終予選、日本対中国を観戦するために中国アモイに遠征した時にも、トラブルには遭遇しなかったという。
「正直なところ、目立った衝突はなかった。当時はみんなで一緒にバスに乗って移動したほどだ」とスンさんは付け加えた。
SNS上での誹謗中傷
だが、SNSで日本代表のファンページを運営している中国東部在住のアキ・ヤンさん(30、女性)によると、ネット上では話は別だという。
ヤンさんのページはフォロワーが増え続けているが、同時に誹謗中傷も増えているという。
ヤンさんによると、「ネット民の中には、『お前は売国奴か? それとも(日本の)手先なのか?』といった言葉をオンラインで投げ掛けてくる人もいる」が、誹謗中傷には「もう慣れた」という。
インスタグラムに似た中国のライフスタイル共有プラットフォーム「小紅書」では、最近の投稿で「気まずい思いをするのを避けるため」として、日本代表ユニホームにあしらわれた日の丸を隠す方法についてのアドバイスが紹介されていた。別のユーザーは「外出する時はヘルメットをかぶろう」と書き込んでいた。
「友好の架け橋」
学生のジュリー・ワンさん(女性)はAFPに対し、ネット上で見かけるコメントのせいで、日本代表を応援していることを公表する勇気が出ないと語った。
「この時期に日本代表を応援するのは非愛国的だという主張をよく目にする」とワンさん。
高市首相が昨年11月7日の衆院予算委員会で、台湾有事をめぐって日本が集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」に該当する具体例を問われ、「戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になりうるケースだと私は考える」と答弁して以来、日中関係は特に緊張している。
上海のサポーターグループの代表を務めるファンさんは、「正直に言って、中日関係がより緊迫している今だからこそ、私たちのような人間が立ち上がることが一層必要だと感じている」と主張。
「私の究極の目標、そして最大の夢は、両国の間に友好の架け橋を築く手助けをすることだ」と付け加えた。
ヤンさんも、誹謗中傷を受けているにもかかわらず、サッカーには「障壁を打ち破る」力があると今でも信じている。
「世界がこんなにも混沌としている今だからこそ、サッカーは政治的なアイデンティティーや国籍を脇に置き、純粋に喜びの源になることができる」とヤンさんは語った。



