サッカーW杯北中米大会の1次リーグ初戦で、日本はオランダと対戦し2-2で引き分けた。前回大会のスペイン戦勝利に続き、今大会でも強豪国から勝ち点を得た。なぜ日本代表は強くなったのか。日本工業大学大学院技術経営研究科の田中道昭教授は「日本がオランダから学び、いまや対等に渡り合う。その関係史がピッチの上で可視化された夜だった」という。
「最も洗練されたサッカーをするチーム」と報道
月曜日の試合を終えて、サッカー解説者のマイケル・コックスがThe Athleticおよびニューヨーク・タイムズに書いた記事が深く刺さった。タイトルは「オランダ対日本:ピッチ外の兄弟愛と、その上での鏡像的なアプローチ」。
コックスはこの試合を2-2という数字で語らなかった。「ダラスのダウンタウンは試合前から青い日本代表のシャツとオレンジのオランダのシャツで溢れ、豪雨の中でも両国のサポーターが笑顔で語り合っていた」という情景から書き出し、この試合を「ピッチ外の兄弟愛と、ピッチ上の鏡像的なサッカーの物語」として描いた。
そして彼はこう指摘した。日本は近年、最も洗練されたサッカーをするチームのひとつになっている。巧みなパス、角度の取り方、ポジションのローテーション。オランダが長年信じてきた「技術的かつ戦術的なサッカー」と、日本が体現するそれは、どこか深いところで鏡のように似ている、と。
さらにコックスが指摘したひとつの数字が印象的だった。「オランダのW杯56試合の歴史上、初めて全スタメンがエールディヴィジ所属でなかった試合だった。しかし日本には2人いた。渡辺と上田、どちらもフェイエノールトの選手だ」。この事実は、単なるサッカーの統計以上の重みを持つ。かつてオランダから学んだ日本が、今やオランダのクラブの主力を送り込んでW杯を戦っている。師弟関係の完成形が、ピッチの上で可視化された瞬間だ。
そしてコックスは記事の末尾で、この試合の真の締めくくりとして、試合後の森保一監督の言葉を丁寧に紹介した。
オランダ銀行で学んだ「水平な組織」の哲学
私はかつて、オランダ系金融機関の日本法人ABNアムロ(通称、オランダ銀行)でナンバー2を務めた。日本拠点のマネージングディレクター、オリジネーション本部長、責任者として、アムステルダム本社での交渉、オランダ人経営者との日常的なやりとり、あの国特有の文化と哲学に深く触れた時間が、私のキャリアの根底に流れている。
オランダ人と仕事をして最初に気づいたのは、彼らが「役割の固定」を本能的に嫌うことだった。会議では部下が上司に平然と反論し、肩書きより論理が優先される。個が自律しながら全体最適を作っていく水平な組織。誰もが「自分の仕事だけ」ではなく「組織全体」を考えて動く。
その文化が、サッカーでは1970年代のトータルフットボールという形で結晶化した。ヨハン・クライフとリヌス・ミケルスが生み出したこの思想、全員が全ポジションを理解し、誰かが動けばその空白を別の誰かが埋めるという思想は、単なる戦術ではなかった。小国オランダが大国に対して、知性と構造と組織でどう戦うかという国家戦略に近い哲学だ。そのDNAはクライフからバルセロナへ、グアルディオラへ、そして現代のポジショナルプレーへとつながっている。
だからこそコックスの「鏡像的なアプローチ」という言葉が刺さった。日本とオランダが似ているというのは偶然ではない。日本はオランダから学んだのだ。そして今、学んだ者がピッチの上で師と対等に渡り合っている。
私は月曜日のテレビ朝日ワイドスクランブルでも、このオランダ的な哲学の視点から、フォーメーションの数字よりその背後にある「なぜそう動くのか」という思想を語ることを心がけた。それは私自身の経験から来る、オランダサッカーへの個人的な敬意でもあった。
森保監督の「一言」に拍手が起きたワケ
試合後の記者会見で、森保監督は「オランダは私たちの師匠のような存在。今日はその師匠と対等に戦えたことが誇らしい」と語った。この一言に、オランダ人記者から拍手が起きた。オランダメディアは「日本は驚くべき成長を遂げた。森保監督の謙虚さとリスペクトが、両国の絆を象徴している」と報じた。
このエピソードは、日本代表の強さの本質を表している。技術や戦術だけでなく、相手への敬意と自己研鑽の精神が、チームを成長させてきたのだ。
「驚くべき」オランダは日本をどう報じたか
オランダの主要メディアは、日本代表のパフォーマンスを高く評価した。ある新聞は「日本はもはや格下ではない。彼らはオランダと互角に渡り合い、むしろ後半は主導権を握った」と報じた。また、オランダ代表の選手も「日本は非常に組織的で、プレッシャーが強かった。引き分けは妥当な結果だ」とコメントした。
日本の成長は、オランダ国内でも驚きをもって受け止められている。かつては技術指導を受けていた立場が、今や対等な競争相手として認められた瞬間だった。
「COO退任」から組織を再設計した鎌田選手
日本代表の進化を語る上で、鎌田大地選手の存在は欠かせない。彼は昨年、クラブでCOO(チーム内の戦術オーガナイザー)的な役割を退任し、より自由なポジションでプレーするようになった。この変化が、彼の創造性を引き出し、オランダ戦でも同点ゴールをアシストする活躍を見せた。
鎌田選手のケースは、日本代表全体の組織再設計の象徴だ。固定された役割に縛られず、選手が自律的に判断し、状況に応じて動く。これはまさにオランダのトータルフットボールの理念と共通する。
日本はついに「対等な競争相手」になった
W杯北中米大会で日本は初戦、強豪オランダと引き分けた。この結果は、日本サッカーの長年の努力が実を結んだ証だ。田中教授は「日本はオランダから学び、それを自国の文化に融合させ、独自のスタイルを築いた。もはや追う側ではなく、並び立つ存在になった」と総括する。
日本代表の強さの秘密は、技術や戦術だけでなく、組織文化と精神性にある。オランダから学んだ水平組織の哲学を、日本流にアレンジし、チーム全体で共有している。これこそが、日本が世界の強豪と渡り合える理由なのだ。



