田中希実選手は今も「なぜ走るのか」という問いへの明確な答えを見出せていない。それでも、迷いを抱えたままスタートラインに立ち続け、2026年も走り続けることを決めた。
日本選手権での悔しさと復活
6月の日本選手権では、5000mでラスト400mまで独走していたが、残り50mで山本有真に逆転され、5連覇を逃した。悔しさの残る2位だった。
それでも2日後の1500mは4分11秒80で制し、7大会連続優勝を果たした。華々しい復活とは言えない。それでも、その結果の裏で、田中は少しずつ立て直しつつあった。
答えがないから、走り続ける
パリ五輪後にインタビューした際には、自分の走りで「みんなの喜びを増やしたい」と語っていた。コーチでもある父、母、妹、姉のように慕う小林祐梨子、チームスタッフ。誰かのために走ることが、当時の田中が見出していた「走る理由」だった。
しかし、2026年の今、その答えは以前ほど単純ではなくなっている。誰かに認めてもらいたいという欲求も、自分が自分に納得したいという願望も、そしてもちろん「みんなの喜びを増やしたい」という思いも、そのすべてが田中の中に積み重なっている。
おそらくそのすべてが理由であり、しかしまだ「走る理由」を説明するには何かが足りないようにも見える。だから田中は、その答えを求めて走り続ける。
日本新記録とアジア大会へ
7月には、世界の一流選手が招待されるシリーズのダイヤモンドリーグ・モナコ大会で3000mに出場し、8分37秒85の自身4番目の記録(当時)で走り切った。続くダイヤモンドリーグ・ロンドン大会では、8分32秒29の日本新記録を樹立。自身の記録を1年5カ月ぶりに更新した。走り続けた先に、一つ、確かな結果が刻まれた。
9月には名古屋で、1500m、5000m、10000mの3種目にエントリーしているアジア競技大会に臨む。
走り続けることにも、休むことにも、正解はない。世界との差は、まだ縮まっていない。レースに出る怖さも消えてはいない。それでも田中は、走ることを選び続けてきた。
迷いを抱えたまま前に進むこと。それが、田中にとって自分を確かめる術なのかもしれない。9月の名古屋で、その選択の意味が、また少しだけ見えてくるのだろうか。



