東京パラ5年、パーソンズIPC会長が評価した日本社会の変化と障害者雇用の重要性
パーソンズ会長が見た東京パラ5年の変化と課題

東京パラリンピックの開催から5年。国際パラリンピック委員会(IPC)のアンドルー・パーソンズ会長は、東京都主催の5周年記念事業で来日し、読売新聞のインタビューに応じた。開催を契機とした社会の変化を評価する一方で、障害者の雇用推進の大切さを強調した。

若者に広がる競技への「触発」

コロナ禍で1年延期され、ほぼ無観客で開かれた2020年パラリンピック。それでも大会は、障害への意識変化、若い世代の触発やボランティア文化、公共交通のバリアフリー進展など多くの社会変化(レガシー)を育む契機となった。パーソンズ会長は8月28日から30日の3日間、都の招請でレガシー視察や意見交換に参加した。

大会で車いすバスケットボールの会場となった有明アリーナでは、東京パラリンピックに触発されて競技を始めた若者たちとの対話が印象に残ったという。「病気で障害を負った14歳の選手は、車いすバスケットボール日本代表の(銀メダルの)活躍が前を向かせてくれたと言っていた。自分も2032年ブリスベン・パラリンピックの代表となる夢を追い、競技をしているのだと。出場し、もしメダルを取ったら、私がプレゼンターとなりメダルを授与すると約束した」と語った。

Pickt横長バナー — Telegram用の共同買い物リストアプリ

パラスポーツが与えた触発が、競技を志す若者を生み、さらに次の世代に感動を伝えていく。その連鎖が生まれていることを評価した上で、パーソンズ会長は「最も重要なのは、彼らがパラリンピックに出てメダルを取れるかどうかではない。大切なのはスポーツが自信を与え、彼らがきっと人生のどんな挑戦にも向かっていける力を得るだろうということだ。それがパラスポーツを広める本当の価値なのだから」と述べた。

共に働くことで変わる見方

日本財団ボランティアセンターで出会った東京大会のボランティア経験者は、体験が自分を変えたと振り返る。「彼は当初、障害に対して偏見を持っていたという。身近に知らなかったこともあり、一体何が出来るのだろうと。しかし東京大会で障害のあるボランティアと共に働いて、彼らが仕事の上で自分と同じことができるばかりか、分野によってはそれ以上の能力を持つことを知り、見方が大きく変わったと教えてくれた」と明かした。

共に仕事をすることで、障害という違いを当たり前のこととして受け入れられるようになる。パーソンズ会長は自身の体験でもその変化が起きたという。「私はブラジルの中流家庭に生まれ、学んだ小学校では障害のある生徒はたった一人しかいなかった。社会に出て働くようになり、初めてその多様さを知った。パラリンピック運動と関わるようになって30年近くなる今は、全ての人が違いを持つのは当たり前だと感じている。例えば車いすを使っていること以外に人としての差はないし、違いを超える工夫さえできれば、最も高い能力を示すのは障害のあるスタッフだったりする」と語った。

今後の課題は障害者雇用の推進

レガシーは、単に大会を開催すれば残るというものではない。あらかじめ計画し、5年、10年と中長期にわたる努力で育み続けるものだという。「5周年で再訪して感銘を受けたのは、日本はそれをしっかり認識し実践しているということ。小池都知事以下東京都と組織委(にいたメンバー)が今もレガシーを担い、5周年を一つの過程として、今後さらに社会変化を育む努力を続ける意欲を持つことだ。日本のアプローチは、今後の開催地の手本となる」と高く評価した。

Pickt記事後バナー — 家族イラスト付きの共同買い物リストアプリ

その上で、今後日本が取り組むべき実社会の変化として、特に障害者の雇用推進を挙げた。「パラリンピックを創始したグットマン博士(脊髄損傷を専門とする英国のストークマンデビル病院院長)は、患者が社会復帰し税金を納めるようになることが目的だと語っていた。収入を得て税金を納めるということは、いわば社会の一員として貢献し市民権を得るということ。自分で人生を決め、自立して生きる術を持つということだ」と説明した。

「もう一つ重要なのは、ボランティアの体験にもあったように、それが社会の認識を更に変えていく原動力になるということ。『障害者』が、『車いすを使う同僚』『視覚障害のある仲間』に変わる。それがもたらす変化は、世界で15%以上とされる障害のある人々だけでなく、社会全体の利益になるだろう」と述べた。

障害や性別など様々な「違い」は、多様な人生の体験と、それに培われた多様な意見や視点をもたらす。多様性を包摂できるインクルーシブな社会は、違いが価値を生む成熟度を持つという。「今の世界を見てほしい。二極分化し自分と異なる意見を聞こうともしない人々や、国際社会の分断を深める行動を辞さない政治家たち。パラリンピックが伝えようとするメッセージは、今人々が最も必要としているものの一つだ」と語った。