劇場版「魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉」が公開された。2011年のテレビシリーズ放送から13年ぶりとなる続編で、かわいらしい絵柄から繰り出されるハードな展開で魔法少女アニメのイメージを覆した作品だ。
鹿目まどか役の悠木碧さんと、暁美ほむら役の斎藤千和さんに、10年以上向き合っている役柄への思いを聞いた。
物語は新たに作り変えられた世界から
魔法少女は、自らの願いと引き換えに魔女と戦う宿命を背負う。傷つき倒れていくその姿を悲しんだ鹿目まどかは、魔女のいない世界を願って魔法少女となり、超常的概念と化して消えてしまう。その自己犠牲を最後まで見届けたのが、親友の魔法少女・暁美ほむらだった。ほむらは、神に等しいまどかをおとしめる「悪魔」となり、新たに世界を改変する道を選ぶ。ほむらが君臨するゆがんだ日常で、まどかは普通の日々を送る。その前に、新たな魔法少女が現れ、物語は動き出す。
2011年の放送前からどこか不穏なアニメだった。脚本は重厚なガンアクションが得意なゲームライター・脚本家の虚淵玄さん、キャラクター原案は「ひだまりスケッチ」のやわらかな絵柄で知られる漫画家の蒼樹うめさん。制作は斬新な演出で鳴らしたシャフトという組み合わせは、とても意外に見えた。
予感は第3話で的中する。まどかたちが突如として死に直面する展開は、「魔法少女」の牧歌的イメージとのギャップも相まって、視聴者を揺さぶった。徐々に明らかになる魔法少女の過酷な運命、ほむらの過去など、全12話に数多くのどんでん返しを仕込み、大ヒットを記録する。アニメーション作家「劇団イヌカレー」による幻想的な異空間の描写も強い印象を残した。
放送後も熱は冷めやらず、12年に再編集版が前後編で劇場公開される。翌年には完全新作「〔新編〕叛逆の物語」が公開され、衝撃的なラストシーンが話題を呼んだ。10、20年代を通して、ソーシャルゲームなど多くの派生作品を生み、今回の劇場版公開まで、世界観を広げ続けた。
悠木碧さん「自分の代名詞って言ってもらえる役」
悠木碧さんは、誰かに「どんな役をやられてるんですか?」と聞かれたとき、鹿目まどかを多くの人が知ってくれている。「自分の代名詞って言ってもらえる役です」。本編のまどかをまた演じられるのがうれしく、誇らしいと語る。
テレビシリーズが放送された15年前は、まだ駆け出しだった。最前線で活躍する先輩たちに支えられ、「何かをなさねば」という緊張感と闘っていた。「誰に強制されたわけでもなく、自分に課しただけなんです。その七転八倒はまどかとすごくリンクして、己自身のように感じる瞬間がありました」
新作は、かつての奮闘と向き合う挑戦だった。当時なら意識しないでも出せたまどかの「成長しきる前の不安定さ」を、今度は自覚的に作り上げないといけない。役柄と同じように悩み、がむしゃらに体当たりしてきただけに、どこまで再現できるかは今の腕前にかかっていた。「『なんで演技の設計図を作らなかったんだ?』っていう当時の自分への恨みはありますね」と笑う。
まどかは、過酷な宿命に生きる魔法少女を明るい場所へ呼び戻す存在でもあり、劇中ではよく友の名を呼ぶ。演じる前も「ほむらちゃん、さやかちゃん、杏子ちゃん」と他のキャラクターの名を呼ぶと、役柄に入っていきやすかった。「みんなの名前を呼ぶ“正拳突き”をしていました」
マイク前では不安でいっぱいだったが、ほむら役の斎藤千和さんは「あおちゃんのまどかを聞くと、私たちも場所がわかるわ」と励ましてくれた。付き合いの長い音響監督・鶴岡陽太さんも「チューニングがうまくなったな」と褒めてくれた。昔も今も周りの人たちは優しい。
キャリアを重ね、言語化できたことがある。「ほむらちゃんは自分の人生の主人公をまどかにしちゃった。まどかは『君の物語は君のためにあるんだよ』って返してあげたいのかなって」
まどかはこの劇場版でも、新しい出会いを経て、ほむらが望まない形で少しずつ変化する。「孵ってはいけない卵が孵ってしまう」不気味さはありながら、根は普通の女の子だ。「前よりもっとまどかが好きです。すごくいい子だし、幸せになってほしいなって思います」。かけがえのない“原点”は、今では良き友となっている。
斎藤千和さん「不器用なところがかわいくて、ほむららしい」
斎藤千和さんは、暁美ほむらというキャラクターについて「やっぱり思春期のまっすぐな子だった」と振り返る。まどかしか眼中になく、世界をコントロールしているようでいて、すぐに不意をつかれてしまう。「『見えてる範囲狭っ!』と思うけど、その不器用なところがかわいくて、ほむららしいですよね」
ほむらは、まどかが悲劇的な結末を迎えるのを避けようと苦闘し続け、この新作でも、親友に訪れる変化を必死に止めようとする。「挫折の仕方をまだ知らないのは見ていて苦しいけど、一番パワーがあって、キラキラしている時期。ほむらを演じるとき、それがすごく大事なことなんです」
総監督を務める新房昭之さんが手がける作品に、「〈物語〉シリーズ」を始め、数多く出演してきた。演じ手にゆだねてくれるだけに、「『僕が見たことのある斎藤さんをやらないよね?』っていうプレッシャーを勝手に感じちゃうんです。また違う引き出しを用意しとかなきゃって」。試行錯誤を重ね、演技を深化させてきた。
テレビシリーズに臨んでいた頃は「いっぱい仕事をして、どんどんのめり込んで、仕事が世界の中心だった」。現在は、子育てに奮闘する母親としての顔も持つ。変わらず少女のままでいるほむらと違い、自身のライフステージは大きく変化した。
育児をしていると、報われないことも多い。作った食事を食べてもらえなかったり、頑張って準備したイベントが雨で中止になったり――。「演技は、自分が真摯に向き合えばちゃんと報われる。仕事は今、ご褒美に近いですね」とほほえむ。
物語の起点となる、ほむらとまどかが交わした約束に対しても、新たな思いが芽生えた。「子どもって約束を破ると、本当に泣いちゃうんですよね。契約とかのほうが深刻な大人とは、約束という言葉の重みが全然違うんです」キュゥべえが少女たちに持ちかけるドライな「契約」と違い、ほむらがまどかと交わした「約束」は、正反対の切実な思いに満ちている。「ほむらにとって、約束が世界で一番大事なんですよね」。経験を重ね、また一つ、この役との距離が縮まった。
キャラクターと出演者
鹿目まどか(CV:悠木碧)は、魔法少女の救済を願い、「円環の理」と呼ばれる神に等しい存在になった。悪魔と化したほむらによって、現在は普通の中学生として暮らす。暁美ほむら(CV:斎藤千和)は、まどかの悲劇的な運命を変えるため魔法少女となった。時をさかのぼる力を持つ。その思いの強さから悪魔となり、再びまどかとの日常を過ごしている。
そのほか、美樹さやか(CV:喜多村英梨)、佐倉杏子(CV:野中藍)、巴マミ(CV:水橋かおり)、百江なぎさ(CV:阿澄佳奈)、紫丁香(CV:若山詩音)、セルマ・テレーゼ(CV:黒沢ともよ)、キュゥべえ(CV:加藤英美里)が登場する。
悠木碧さんは千葉県出身。主な出演作に「薬屋のひとりごと」(猫猫)、「僕のヒーローアカデミア」(蛙吹梅雨)、「ヒーリングっど●プリキュア(●はハートマーク)」(キュアグレース/花寺のどか)、「君の名は。」(名取早耶香)などがある。斎藤千和さんは埼玉県出身。主な出演作に「〈物語〉シリーズ」(戦場ヶ原ひたぎ)、「暁のヨナ」(ヨナ)、「黒子のバスケ」(相田リコ)、「ぱにぽにだっしゅ!」(レベッカ宮本)、「月詠 ―MOON PHASE―」(葉月)などがある。
「魔法少女まどか☆マギカ」は、かわいらしい絵柄から繰り出されるハードな展開で、魔法少女アニメのイメージを覆した作品として知られる。劇場版「ワルプルギスの廻天」は、その13年ぶりの続編として公開された。



