88歳の認知症の母親を実家で介護する63歳の娘は、きょうだいとの確執や心身の疲労に苛まれながらも、自らの楽しみを確保し、悔いのない親孝行を貫く覚悟を持っている。ノンフィクションライター・旦木瑞穂氏が、その壮絶な介護の実態と葛藤を報じた。
左大腿骨の人工股関節置換手術と認知症の進行
2016年、79歳の認知症の母親は左大腿骨の人工股関節置換手術を受けた。手術前、娘の増井十和さん(仮名)は母親を脳神経外来に連れて行き、CTスキャンで脳血管の詰まりが判明。血液をサラサラにする薬が処方された。別の病院ではアルツハイマー型認知症の進行を遅らせる貼り薬と漢方薬が処方されたが、十和さんは「はっきりした診断名は言われず、有名な脳外科医なのにがっかりした」と振り返る。
手術後、母親はなかなか歩けるようにならず、十和さんは必死にリハビリをさせた。「まだ79歳だったので、元気になってほしかった」と語る。要介護認定は要介護1で、デイサービスにも通い始めたが、1年ほどで「やめたい」と言い出した。それでも足腰は回復し、杖と十和さんの手があればゆっくり歩けるようになり、入浴も十和さん一人で介助できるまでになった。
兄と夫の大喧嘩、家を追い出される
介護を続ける中で、家族間の確執が表面化する。十和さんの兄と夫が大喧嘩に発展し、十和さんは実家を追い出される事態に。その後、一人暮らしを満喫する期間もあったが、父親の死と母親の救急搬送を機に、再び介護の中心に戻ることになる。
十和さんは「うるさい外野のハエには絶対負けない」と語り、動脈瘤乖離リスクが高い88歳の母親の介護に人生を捧げる覚悟を示す。自身も63歳と高齢でありながら、心身の限界と向き合いながら介護を続けている。
50年間「豚」扱いされた過去と介護の現実
前編では、50年間「豚」扱いされ、兄や父とずっと険悪だった50代女性が、79歳の認知症母親の夜中トイレ介助で心身の限界を迎える様子が描かれた。きょうだい間の罵り合いや、介護を主に担う子どもと傍観するだけの子どもの構図が浮き彫りになっている。
十和さんは「身内に足を引っ張られ心身とも削られている」と吐露するが、それでも自分自身が楽しむ時間を作り、悔いなく親孝行をするつもりだという。その覚悟と意地は、長年の家族関係や自身の人生観に根ざしている。
介護と自己実現の狭間で
介護に専念するあまり、自身の健康や趣味を犠牲にする介護者は少なくない。しかし十和さんは、自身の楽しみを確保することで、介護のストレスを軽減し、持続可能な介護を目指している。専門家は「介護者自身のケアがなければ、介護の質も低下する」と指摘しており、十和さんの姿勢はその重要性を示している。
この記事は、介護の実態と家族関係の複雑さを浮き彫りにし、多くの読者に共感と衝撃を与えている。介護問題に関心のある人々にとって、示唆に富む内容となっている。



