GMOインターネットグループ社長が在宅勤務を完全廃止 生産性が下がった理由はタイピング数と発表し物議
GMO社長、在宅勤務を完全廃止 生産性低下の根拠はタイピング数

GMOインターネットグループの社長が、在宅勤務を完全に廃止すると発表した。理由は「生産性が下がったから」だ。その根拠として挙げたのが「タイピング数」だ。格闘技の「正拳突き数」に並ぶ原始的な指標に、ネット上ではツッコミが相次いだ。

同社はその前に「音声入力とAIを使って生産性向上プログラム」を打ち出していた。このため「そのプログラムのせいでタイピング数が減ったんじゃないか」というツッコミも入った。ただ、仮に音声入力を指標にしても、声が小さい、滑舌が天龍、といった別のハンデで差がつきそうだ。タイピング数以外の判断基準でも「在宅勤務は生産性を下げる」という結果は変わらなかったのではないかと筆者はみる。

在宅勤務で「8時間が消えた」専業作家の実感

GMO社長は「在宅で生産性が上がる人もいる」としつつも、やはり多くの人では在宅勤務で生産性が下がり、トータルではマイナスになったようだ。この主張を裏付けるように、筆者自身の体験がある。

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筆者はかつて会社員と漫画家を兼業していたが、8年ほど前に会社を辞めて専業作家になった。単純に計算すれば、会社に費やしていた8時間以上を執筆業に回せるのだから、生産量は倍以上にならないとおかしい。だが、実際の生産量は退職前と大して変わらず、むしろ落ちていた。睡眠時間が8時間増えたわけでもない。一体8時間はどこへ消えたのか。全く見当がつかない。つまり、記憶にも残らない生産性ゼロの時間が8時間増えたということだ。

この無駄時間は、気が散りやすい環境ほど発生しやすい。衆人環視がなければ、さらに発生する。会社より家の方が、ゲームや布団など気を散らすアイテムが常備されている。それらに伸ばそうとした手を切り落としてくれる人もいない。よほど集中力のある人でないと、生産性を落とさずに在宅勤務を続けるのは難しいだろう。

また、在宅勤務となれば、家族がいる場合もある。同じ空間に子どもがいる状態で仕事をするのはもはや無理レベルだ。自分で衣食住を確保できない配偶者がいる場合も同様だ。会社にも仕事を邪魔してくる人はいるが、少なくとも昼ご飯を用意してあげる必要はない。

「在宅で生産性が上がる人」は何者か

「在宅勤務で生産性が上がる人」とは一体何者なのか。筆者には、「屋根がない」「タイピング中に同僚が体当たりしてくる」など、会社環境が劣悪すぎる人以外は思い浮かばない。

「生産性が下がるから在宅勤務をやめる」と言われれば、反論の余地はない。ただし、社員の働きやすさより会社の利益を優先したという点で、批判が出るのも当然だ。

筆者自身は、毎日8時間をドブに捨てている事実は誠に遺憾ながら、完全在宅勤務の今の方が気持ち的には楽だと感じている。在宅勤務で生産性は落ちているかもしれないが、楽に働ける社員もいるだろう。何より「通勤」という苦行を省ける。また、在宅勤務OKにすれば、横幅がドア幅を超えたなどの理由で出社できない人でも就業が可能になる。

労働者側の選択肢を増やすという意味では、在宅勤務はあった方が良い。それを廃止するのは、社員の働きやすさより会社利益優先と取られても仕方ないだろう。しかし事実として、在宅勤務によって8時間の虚無を作り出す人は存在する。生産性減少がシャレにならないレベルになれば、営利企業として無視する方が逆にありえない状況だったのかもしれない。

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廃止は業界に広がる、さくらインターネットは真っ向から対抗

GMOだけでなく、在宅勤務を廃止する企業は増加傾向にある。やはり「在宅勤務は生産性を下げる」は事実のようで、ますます「在宅勤務で生産性が上がる人」の異質さが際立っている。

一方、同じインターネット企業の「さくらインターネット」は「フルリモートワークを続ける」と発表し、暗にGMOの判断を批判した。ところが、すぐに元社員を名乗るアカウントから「常に出社しなければいけない社員もいるのに」というツッコミが入り、議論の場はギスギスした雰囲気になった。

生産性はともかく、働く側としては在宅勤務の選択肢を残してほしい。しかし、出社勤務に全くメリットがないわけではない。漫画家の中にもあえて家の外で仕事をする人がいる。自宅で仕事ができるのに、なぜ出かけるのか。理由は「仕事しやすい環境」を求めているからだ。

会社は仕事をするのに最適化された環境であり、仕事用の備品も揃っている。光熱費は会社持ちで、トイレも無料で使い放題。出社勤務は、ワークスペースを無料で借りられるのと同じで、効率よく仕事ができると言えなくもない。フリーランスは、ワークスペースや仕事に最適化された環境を得るのに費用がかかる。

なにより「労働」という、あまりにも気が乗らないことをするには、ある程度の「強制力」が必要だ。在宅勤務で一向に仕事が進まず労働時間だけが無駄に増えるより、出社勤務という強制8時間労働で解放される方が、社員側にとっても良いのかもしれない。