東京大学の休学者数がこの10年間で1.6倍に増加している背景には、名門校に通う生徒たちが抱える深刻なメンタルヘルスの問題がある。アメリカ心理学会の機関誌『Monitor on Psychology』(2024年10月号)によれば、学業成績が極めて高い学校に通う生徒は、不安障害・うつ病・薬物乱用に陥るリスクが一般的な同世代の平均と比べて2~6倍にもなるという。
「トキシック・アチーブメント・カルチャー」の蔓延
ジャーナリストのジェニファー・ブレヘニー・ウォレス氏は2023年に著書『Never Enough: When Achievement Culture Becomes Toxic』を出版し、ニューヨーク・タイムズのベストセラーとなった。同書では「トキシック・アチーブメント・カルチャー(有害な達成文化)」という概念を提起し、常にトップを取り続けてきた子どもたちが慢性的な不安と抑うつに追い込まれている実態を指摘している。
アリゾナ州立大学のスニヤ・ルーサー教授らの長年の研究により、こうした生徒たちはアメリカの政策レポートで正式に「リスク集団(at-risk group)」として分類されるようになった。トップ校に通うという一見誇らしい属性が、メンタルヘルス上はリスク要因として警戒されているのだ。
大学生のメンタルヘルス悪化の実態
ハーバード大学の学生健康調査では、学生の22%がうつ症状、23%が不安症状を報告している(『Harvard Crimson』2025年9月報道)。また、米ボストン大学公衆衛生大学院の研究(Healthy Minds Network、全米300校以上・約35万人対象)によると、2013年から2021年にかけて大学生のうつ病は135%、不安症は110%増加している。
この問題は日本だけの現象ではない。東大休学者の増加も、同様の社会的圧力が背景にあると考えられる。完璧主義を求められ続けた結果、頂点に立っても「まだ足りない」という感覚に苛まれるケースが少なくない。



