翔凜中高、演劇教育で「思考を停止させない教育」を実践 生徒が創作劇を披露
翔凜中高、演劇教育で「思考を停止させない教育」を実践

千葉県君津市の翔凜中学校・高等学校は2025年度、コミュニケーション能力の向上を目的に、中学1~3年生を対象とする演劇教育を開始した。生徒たちはプロの劇団員に指導を受け、クラスごとに脚本、演出、照明などすべての準備を行い、毎年6月の学園祭「翔凜祭」で披露する。

劇団員の指導を受けながら4か月弱で演劇を完成

栗原康徳学園長は「演劇は『思考を停止させない教育』そのもの」と語る。同校ではこれまでプレゼンテーションとディベートに徹底的に取り組んできたが、新たな取り組みとして演劇教育を始めた。きっかけは、昨年1月に劇作家・演出家の平田オリザさんが兵庫県豊岡市の小中学校で演劇教育をしているという記事を目にしたこと。その夜に平田さんへメールで指導を打診し、快諾を得た。3月に対面で打ち合わせを行い、4月には劇団員の指導を受けて練習に入った。

演劇教育を担当した倉下留美教頭は「中1生は『初めまして』の状態から、すぐ劇に取り組みましたね」と振り返る。「劇団の方に来ていただき、翔凜祭までに中1・中2は5回、中3は気合いを入れて9回、指導していただきました」

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生徒たちは劇団員に与えられたお題に沿って演技に挑戦し、アドバイスをもらいながら学級活動や総合学習の時間、放課後や休み時間も使って劇作りに取り組んだ。台本作成や配役のほか、音響や照明といった役割分担も、生徒たち自身で相談しながら決めていったという。

学園祭でオリジナル演劇を披露

昨年6月14日、一般公開された学園祭「翔凜祭」で、各学年2クラスずつ計6クラスの生徒たちによるオリジナルの演劇が披露された。中1は学校生活を劇で表現する「翔凜の1日」、中2・中3はほぼ自由に決めたテーマで創作劇を上演した。

3年A組の劇のタイトルは「ベトナム戦争~戦争の陰で利益を得る人々の存在~」。大きなテーマは「戦争によって犠牲になる人がいるけれども、戦争によって生きることができる人もいる」というもの。修学旅行でベトナムを訪れる予定があり、戦跡なども見学するため、演劇作りを通して事前学習しようと考えたという。

生徒たちはこのテーマを、武器商人、兵士、軍医の視点から、絡み合う三つのシナリオの中で描いた。武器や地雷を売り込んで利益を上げた軍事会社の社長が、現地を視察中、自ら売り込んだ地雷を踏んでしまう話。戦争で生き別れになった兄弟が、それぞれ武器商人と兵士になり、武器を買いに来た弟は戦闘で命を落とし、兄がその遺体を見つけて絶望する話。軍医のシナリオは、医師免許を取ったばかりの女性が、軍の襲撃で家族を殺され、1年後に軍医となった女性が上官の家族殺害命令への復讐を決意し、命の重さについて問い詰めた末に殺害するというものだ。

「思考を停止させない教育」に直結

軍医のシナリオ作りを担当した秋元初音さん(現高1)は「最初は真面目に働いている女医さんの話だったんですけれど、面白くないなと思って、最終的には、家族を殺されて復讐に走る女医さんの話にしました」と話す。「セリフを覚え直すのは大変でしたけれど、自分たちが面白くないと思っているものは観客が見ても面白くないと思いました」

栗原学園長は「正直、驚かされました」と語る。「戦争はやっぱり悲惨なものだよ、やっちゃいけないんだ、といった当たり前のストーリーを想像していたのに、死の商人まで演じてしまう。保護者の中には泣いている人もいたぐらいで、いい意味で裏切られました。中学生でもこんなに深く考え、演じることができるのかと」

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秋元さんは「みんな考え方や解釈の仕方が違います。劇の世界観を崩さないために、この場面はこういう意味だよ、と説明しながら共通認識をつくるのが大変でした」と振り返る。「でも、問題点や課題を見つけて、みんなで試行錯誤しながら解決していく過程はすごく楽しかったですね」

倉下教頭は「今回はクラスの仲間全員の気持ちを考えて劇をつくり上げる、ということをやってもらいました。今後は見ている人の気持ちも考えてどういう表現をするか、というところも取り入れられたらいいなと思っています」と言う。「自分たちが楽しいだけではなく、もっと視野を広げて考えられる生徒が出てきてほしいと思っています」

栗原学園長は2021年春の就任当初から「思考を停止させない教育」を理念に掲げている。「脚本から配役まで、生徒たちがゼロからつくり上げていくので、演劇は『思考を停止させない教育』そのものだと考えています。機械やAIが社会を席巻していく中で、人間でなければできない部分はこれからも残っていくでしょう。だからこそ、こうした教育の機会を生かして、相手とのしっかりした交渉や話し合いができる人間になってほしいなと思っています」