鎌倉学園中学校・高等学校(神奈川県鎌倉市)で今年度、吉村忠昭副校長が新しい校長に就任した。理科教師として長いキャリアを持つ吉村校長は、理科を「人を助ける」目的を持った学問ととらえ、そこから教育全般を「生きる知恵」を教えるものだと考える。そのために、校長の立場からあらためて、生徒や教員の思いに耳を傾け、学習プログラム作りなどに生かしたいという。
教育は「生きる知恵」として教えるべき
吉村校長は、静岡大学理学部を卒業して1988年、鎌倉学園の理科(生物科)教員に。以後、教務主任や教頭、副校長を歴任し、今春から現職。また、生物部顧問として20年以上、生徒の生物飼育などを指導してきた。
「私は理科の生物担当でしたが、理科は知識の先に『人を助ける』という目的を持つ、社会に直結した学問だと考えています。文系の理科授業ではあまり高度なことは扱わない代わりに、『生物学の分野が社会にどう生きているか』という話を度々しました。コロナ禍の時期に血中酸素濃度やPCR検査について話すと、生徒も興味を持ってくれました。理科だけでなく、英語や他の教科も『生きる知恵』として教えるべきだと思っています」
学校が評価される基準としては進学実績が大きいが、「それのみを追い求める学校ではいけません。生徒自身が、学ぶ楽しさを実感しながら伸びていける場でありたいのです」と述べる。
そのためには、生徒の思いや考え方をじっくり聞き、受け入れることから始めるべきだという。以前、中3のクラスを担当していたとき、生徒から「高校に進んだら部活動をやめるべきでしょうか」と相談を受けた。対話を重ねるうち、その生徒はスポーツに対して力不足を感じており、踏ん切りを付けたいのだと分かってきた。結局、部活動はやめて応援団に入ったが、団長としてテレビの取材が来るほど活躍した。「対話を通じて自分の思いを整理し、改めて打ち込めることを見つけたのだと思います」と振り返る。
進学指導も同じで、まず生徒に「職業観」を考えさせる。将来何をしたいのか、それを実現するにはどんな仕事がいいか、ならば進学先は、そして今取り組むべきは……、という道筋で、勉学の姿勢を作っていく。
本校では、年5回の試験の前後に、担任がクラスの生徒全員と面談を行っている。15分程度が基本だが、話の流れで1時間程になることもあるという。
耳を傾けるのは生徒の声だけではない。教員間の連絡は最近チャットで済ますことが多いが、ニュアンスや熱意をくみ取るため、対面で話す機会もおろそかにしたくない。校長室のドアは基本的に開けておき、声をかけやすい雰囲気づくりに努めている。
マニアックな教員たちがつくる探究学習
この学校ならではの特長として、人間教育を重視している点を挙げる。入学当初から宿泊行事などを通して親しい仲間を作り、自他の理解や人間関係の作り方を学び、協力して物事を進める姿勢などを育てる。部活動に力を入れて「文武両道」の成長を促す学校でもあり、部活動以外にも好きなことに打ち込む校風がある。
吉村校長が「こうあってほしい」と願う姿に近いのが、4、5年ほど前に始まった「生徒広報」の活動だ。部や委員会とは別に自然発生した有志グループで、学校説明会やオープンスクールに参加し、彼ら自身の言葉で「鎌学は本当に楽しいところ」と力強くアピールしてくれる。その「楽しさ」は単に好きなことをやるということではなく、仲間と一緒に勉強や部活動、そして生徒会などの責任ある役目にも取り組んでこそ得られる充実感だという。
「私が赴任した頃は、まだ画一的な勉強優先の空気がありましたが、近年は探究学習を始め、教科書以外の学習機会も増え、『鎌学ライフ』を満喫できる環境がますます整ってきました」
探究学習については、本校の教員は専門性が高く、個性的でマニアックな人が多く、「これを学んでほしい」というテーマと熱意を持っている。探究の授業もマニュアルやテキスト任せではなく、教員たちがオリジナルの組み立てや運営を行っている。これは研修旅行にも言えることで、「ベトナム研修」や「ヨーロッパ研修」などは、現地を何度も旅行し、土地の魅力や社会課題をよく知る教員が企画している。
体験型の学びを充実させる今後の課題
今後の学校運営の課題として、これまで本校は放課後などに自学自習する空間があまりないのが課題だったと指摘。60席ほどの自習室はあるが、グループでのミーティングやプレゼンテーションなどができる「ラーニングコモンズ」的な空間もぜひ欲しいと述べる。生徒が1台ずつノートパソコンを持つようになり、あまり使わなくなった「CAI室(コンピュータ支援教育室)」を改修し、そうしたスペースに活用したいと考えている。
学習プログラムの面では、生徒がこれからの自分を考える刺激となる体験型の学びを増やしたいという。本校では10年以上前に「K-Labo」と言う理系の課外授業を開始し、フィールドワークなど体験型の学びを行ってきたが、近年は「総合探究」の一部に組み込んだ関係で、やや小ぶりになった観があった。そこで今年は、以前行っていた筑波研究学園都市の1泊2日ツアーを復活させた。定員30人のところに60人も応募があり、強い手応えを感じている。他にも、臨海実習や森林実習などのテーマを絞り込んだ体験学習や、大学と連携して最先端の研究に触れる機会も多く作りたいと思っている。
「実現すべきことは多いですが、教員たちの『これをやりたい』という声を聞くことが基本だと思っています」と吉村校長。例えば、高1の希望者向けの英語研修がある。従来はオーストラリアで実施していたが、コロナ禍を経て再開する際に「本格的な英語に触れさせたい」という英語教員の意見に基づき、イギリスに切り替えた。
この研修は夏休みに行うため、部活動を頑張っている生徒は試合などとぶつかるケースもある。そのため、大学から留学生を招いて国際理解やプレゼンテーションの練習を行う中3・高1向けの「国内英語研修」も並行して行っている。その対象に今年は中2も加えた。これも担当教員の声に基づいた措置だ。
「生徒とじかに向き合う教員らの声を吸い上げ、『まずはやってみよう』と背中を押す校長でありたいと思っています」
受験生や保護者へのメッセージとして、「勉強はもちろん大切ですが、『何か打ち込めるものを探したい』というエネルギーを持った子にぜひ来てほしいと思います。熱意あふれる先生方もいるし、同じ目標を持つ仲間も見つかるでしょう。共に充実した学園生活を送りましょう」と語った。



