広島平和文化センターの副理事長を務める谷史郎氏(63)は、被爆80年を迎えた昨年以降、平和教育の強化に注力している。同センターが運営する広島平和記念資料館(広島市中区)では、知識の習得に留まらず、子どもたちが主体的に平和を考え、行動に移すことを促す「資料館をハブとした新しい平和学習」を確立することを目標に掲げている。
資料館の来館者増加と課題
資料館ではインバウンド(訪日外国人客)の増加により、毎年来館者数が過去最多を更新している。修学旅行生も堅調で、昨年度は約32万人が訪れた。しかし、人口の多い関東圏からの来館者は依然として少なく、これが課題となっている。谷氏は「行き先に広島を選んでもらい、より充実した平和学習ができるよう、学校への支援を進めている」と語る。
教員向け支援と事前学習教材の開発
「どんな事前授業をしたら良いかわからない」という教員の声に応え、事前学習用の教材を現在製作中である。昨年度からは教員向けの研修会も開催し、広島への修学旅行に熱心な学校のノウハウを共有している。これにより、教員の準備負担を軽減し、より効果的な平和学習を実現する狙いだ。
子ども向け展示スペースの整備
館内の混雑により修学旅行生がゆっくり見学できないという意見を受けて、資料館東館地下1階に子ども向け展示スペースを整備する。このスペースでは、建物疎開中に原爆で犠牲となった子どもたち一人ひとりに焦点を当て、彼らの戦前から被爆直後、戦後までの軌跡をたどる。来館する生徒たちと同世代の子どもたちの体験を通じて、自らと重ね合わせながら深い学びを得られるようにするのが目的である。
平和学習の場づくりとユース・ピース・ボランティア
修学旅行以外の子どもたちの平和学習の場も積極的に創出している。昨年、8月6日の平和記念式典に合わせて、全国から派遣された中高生が交流し平和を議論する「全国平和学習の集い」と、平和への取り組みを発表する「全国こども平和サミット」を初めて開催した。広島の中高生たちが「ユース・ピース・ボランティア」として中心となり、会の進行や議論のまとめ役を担っている。
今年は全国から約1400人の参加を見込み、ユース・ピース・ボランティアは約450人に上る。ボランティアは6月から全4回の研修で、被爆者の話を聞き、建物疎開について学ぶほか、実践的なグループディスカッションを重ねている。本番では、広島の子どもたちが平和の発信者として自らの考えを伝え、参加者の意見を尊重しながら議論を深めていく。昨年から継続して参加する生徒も多く、谷氏は「手応えを感じている」と述べている。
海外派遣と平和構築人材の育成
ユース・ピース・ボランティアには、海外の政府関係者の案内などを担う高校生と大学生合わせて約180人も登録している。その中から、より専門的な研修を受けた大学生2人を今春、米ニューヨークでの核拡散防止条約(NPT)再検討会議に派遣した。谷氏は「センターとして子どもたちがステップアップできる環境をつくり、平和構築人材の育成を続けたい」と今後の展望を語った。
谷史郎氏の経歴
谷氏は1962年12月、千葉県出身。東京大学法学部卒業後、旧自治省(現総務省)に入省し、公務員課長などを歴任。2017年から2019年まで広島市の副市長として企画総務などを担当した。退任後は総務省に戻り、自治財政局審議官などを務めた。退官後の2023年、広島平和文化センターの副理事長に就任した。



