先の大戦で日米が激戦を繰り広げたパラオ・ペリリュー島。約1万人が戦死した「玉砕の島」には、およそ千人の日本兵が眠るとされる集団埋葬地がある。長く所在不明だったが、考古学の知見を調査に取り入れたことで、発見につながった。調査に関わった昭和女子大の菊池誠一名誉教授(71)は遺骨収集における考古学の重要性を訴える。
考古学の手法で集団埋葬地を特定
もともと東南アジア地域の考古学が専門の菊池さん。遺骨収集に関わるようになったのは平成30年、群馬県在住の人類学者、楢崎修一郎さんに声をかけられたことがきっかけだ。パラオで遺骨を収集する場合、現地の法令により、考古学者による記録や報告書の提出が求められる。
日本では28年、遺骨収集を「国の責務」と位置付けた戦没者遺骨収集推進法が成立。これを受け、政府によるパラオへの考古学者派遣が始まっていた。菊池さんと遺骨鑑定の第一人者である楢崎さんとは旧知の間柄。ペリリュー島には先の大戦時、自身の出身地である同県高崎市の歩兵第15連隊も派兵されており、縁を感じた。大学を定年退職した後、令和4年にパラオへの派遣に加わった。
ペリリュー島中心部には、日本兵1086人が眠る集団埋葬地がある可能性が米軍の資料から浮上していたが、場所は特定されていなかった。菊池さんらは5年から集団埋葬地の本格的な調査を始めたが、広大な土地のどこに遺骨が埋められているかは地上からは判別できない。
トレンチ調査で遺骨を発見
そこで菊池さんたちが用いたのが、遺跡発掘の手法。むやみに掘り進めるのではなく、敷地をマス目状に区画した上で、トレンチ(地下の様子を調査するための溝)を掘って調査した。
同年7月、自然に堆積する黒い土の中に、石灰岩が均一に混ざった層が見つかった。考古学者の菊池さんは土の種類や堆積具合から、地下の状況を見抜くプロだ。「これは人為的に埋められたもの。近くに骨が眠っている」と確信した。翌年5月、その一帯を重点的に調査すると、ついに2人分の遺骨が見つかった。
菊池さんによると、米軍は土を掘ったあと、サンゴを砕いた破片(石灰岩)を遺体の上にまいて埋葬していたとみられる。今年2月には埋葬地の中心部で、砂浜にあるようなきれいな砂で覆われた遺骨を発見。菊池さんは土の様子や他の遺骨との埋葬方法の違いから、ペリリュー島で日本軍守備隊を率いた中川州男(くにお)大佐の遺骨ではないかと推測している。
遺骨収集における考古学の意義
厚生労働省は7年度から関係予算を倍増させ、パラオでの遺骨の収集体制を強化している。来年度までの作業終了を目指し、今年6月末時点で379柱を収容した。一方、パラオ以外の遺骨収集の現場には考古学者を派遣していない。同省の担当者は「相手国の要請に応じて対応している」と説明する。
これに対し、菊池さんは「少なくとも集団埋葬地の調査には考古学の知見が必要ではないか」と訴える。複数の遺骨がある集団埋葬地では、発見状況の記録が不十分なまま掘り進めると、遺骨が混ざったり、埋葬時の様子が分からなくなったりする恐れがあるためだ。
調査に時間がかかるのは事実だが、それでも菊池さんは「丁寧に遺骨を取り上げることで最期の様子が分かり、可能な限りすべての骨を遺族に返すことができる」と考古学の知見を導入することの意義を強調している。



