次世代の起業家育成に尽力する実業家の渋谷修太氏は、講師を務める大学で衝撃的な光景を目撃した。学生たちがAIに丸投げして作った資料でプレゼンテーションを始めたが、書いてある漢字が読めなかったのだ。渋谷氏は「今年から明らかに学生の理解度の質が下がっている」と危機感を覚えたという。
AIが作った資料でプレゼン、焦る学生たち
渋谷氏は2011年に長岡工業高等専門学校時代の仲間とフラーを創業。アプリ分析サービスで急成長を遂げ、新潟県企業として初めて東証グロース市場に上場した実業家だ。現在は同社の取締役会長を務める傍ら、複数の高専や大学でアントレプレナーシップ教育に携わり、全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト「DCON」でもメンターを務めている。
高専や大学では講演のほか、1~2カ月かけてグループワーク形式でビジネスプランを考え、プレゼンを行う実践型授業なども実施している。そうした教育活動の中で今年度、先述の衝撃に見舞われた。大学3年生の授業での出来事だった。
「以前からAIの活用は許可しているのですが、スライド資料のレベルは格段に上がっているのに、プレゼンの際に資料の漢字を読み上げられない。内容を学生自身が理解できていないので、質疑応答にも対応できない。全8チーム中の3~4チームで、そのような現象が起きたのです」と渋谷氏は振り返る。
この出来事を2026年4月にXへ投稿したところ、教育関係者のみならずビジネスパーソンからも「うちの会社でも同じことが起きている」との反響があった。AI活用の実態に危機感を抱いているのは、教育現場だけではなかったのだ。
従来の課題やテストで「理解度」は見抜けない
渋谷氏は、AI時代に必要なのは「AIでの失敗経験」だと指摘する。学生たちはAIを使えば簡単に答えが出せると考えがちだが、その結果、自分で考えずに課題をこなすだけになってしまう。特に、AIが生成した内容をそのまま受け入れ、理解せずに使うことで、知識の定着が妨げられているという。
「従来の課題やテストでは、学生がAIを使っているかどうかを見抜くのは難しい。レポートの質は上がっているのに、口頭で質問すると答えられない。これが新しい学力低下の形です」と渋谷氏は警鐘を鳴らす。
教育現場では、AIを禁止するのではなく、どう活用するかを教える必要がある。渋谷氏は学生に対して、AIが作った資料をそのまま使うのではなく、自分で調べ直し、理解した上でプレゼンするよう指導している。また、AIに頼りすぎないために、アウトプットのプロセスを重視する授業設計が重要だと語る。
義務教育段階で教えるべき「大前提」とは?
渋谷氏は、AI時代に必要なのは基礎学力の徹底だと強調する。特に、漢字の読み書きや計算力など、AIに頼らずとも身につけておくべきスキルが重要だ。AIが発展しても、人間が基本的な知識を持っていなければ、AIの出力を正しく評価できないという。
「義務教育段階で、AIはあくまでツールであり、自分で考えることが大事だと教えるべきです。AIに丸投げしてしまうのは、基礎ができていないからです。漢字が読めないというのはその象徴的な例です」と渋谷氏は述べる。
また、AIを使う際には、その結果を検証する習慣を身につける必要がある。AIが間違った情報を出すこともあるため、批判的思考が欠かせない。渋谷氏は、教育現場でもAIリテラシーを早期から教えるカリキュラムが必要だと提言する。
AI時代における「高専生の強み」
渋谷氏は、高専教育に注目する。高専では実践的な技術と理論をバランスよく学ぶため、AI時代に強い人材が育つという。実際、DCONでは高専生がAIを活用した高度なプロジェクトを発表しており、そのレベルの高さが評価されている。
「高専生は、手を動かしながら学ぶので、AIを使ってもその仕組みを理解しています。理論と実践の両方を身につけているため、AIを単なるブラックボックスとして扱わないのです」と渋谷氏は説明する。
一方、大学では理論偏重の教育が多く、実践的なスキルが不足している。AIを使いこなすには、基礎的なプログラミングやデータ分析の知識が不可欠だが、文系の学生にはその機会が少ない。渋谷氏は、大学教育でも高専のような実践的な学びを取り入れるべきだと主張する。
今こそ「高専教育の拡充」が必要だと言えるワケ
渋谷氏は、AI時代の教育として高専モデルの拡充を提案する。高専は5年間で専門知識と実践力を養うため、社会に出たときに即戦力となる人材を輩出している。しかし、高専の数は限られており、地域によっては進学できない学生も多い。
「高専教育を全国に広げることで、AI時代に必要な人材を育成できる。特に地方では、IT人材が不足しているので、高専がその役割を担うべきです」と渋谷氏は語る。
また、企業と連携したインターンシップやプロジェクトベースの学習を強化することで、学生が実践的なスキルを身につけられる環境を整える必要がある。渋谷氏自身も、フラーで高専生のインターンを受け入れ、実際のビジネス現場で学ぶ機会を提供している。
「AIに頼りすぎず、自分の頭で考える力を育てることが、これからの教育の使命です。そのためには、高専のような教育システムをモデルに、全国で実践的な学びを推進すべきです」と渋谷氏は締めくくった。



