甲府地方気象台が1894年から続けてきた富士山の初冠雪観測が、今季から気象衛星やレーダーなどの最新技術にバトンタッチされる。これまで職員が毎朝、目視で確認してきた手法が変わることで、より正確な積雪情報の提供が可能になる一方、発表当日に麓から雪化粧した富士山を楽しむことが難しくなる可能性もある。
130年以上続いた目視観測の歴史
富士山の初冠雪観測は1894年に始まった。甲府市の同気象台から、約40キロ離れた富士山の山頂付近にうっすらと雪が積もった様子を確認できれば、初冠雪が発表されてきた。平年は10月上旬頃のため、同気象台では例年10月頃から、当番の職員が朝8時頃に気象台屋上に上り、双眼鏡を使って山頂を確認してきた。山頂付近の気温が0度以下になり、冠雪の可能性が高まる日は、早朝から何度も霊峰を凝視するという。
これまで最も早く観測されたのは2008年8月9日。一方、2024年は全国的に気温が高い状態が続いたことなどの影響で、観測史上最も遅い11月7日に観測された。
当時、同気象台で観測予報管理官として初冠雪観測に携わっていた松本守さん(62)(現・水戸地方気象台所属)は、「我々職員も富士山が雪をかぶった姿を見ることを楽しみにしていたが、24年は本当にやきもきしました」と振り返る。10月末頃からは、全国各地から「初冠雪はいつ頃か」と1日20本以上の電話がかかってきたといい、「早く降ってほしいと思っていたので、(観測できた時は)ほっとした」と話す。
目視観測の問題点と新たな手法
人の目による観測では、夜間や雲がかかっている際には観測できないという問題点があった。寒空の下、雲から富士山が出るまで屋上で1時間近く待機することもあったといい、「職員の負担が大きいのでは」との指摘も上がっていた。
そこで、この秋から観測手法の変更を決定。各地に設置された気象レーダーやアメダス、上空から地面の色などを見て状況を判断する気象衛星「ひまわり」などを活用する。より客観的な積雪情報を、これまで初冠雪観測の対象としていなかった山も含めて、時間帯や天候を問わずに把握できるという。
ただ、これまで初冠雪の発表当日には、多くの人が麓などから雪化粧の富士山の姿を楽しんできたが、今後は雲がかかっていたり、夜間であったりしても初冠雪が観測されるため、県民らが当日に初冠雪を確認できなくなる可能性もある。同気象台では「より詳細な冠雪状況が確認できることで、より安全な登山計画などにデータを生かせる可能性もある。新たな観測にご理解いただければ」と話している。
麓の自治体は独自の「初雪化粧宣言」を継続
一方、麓の自治体である富士吉田市では、気象台とは別に独自に「初雪化粧宣言」を発表している。同気象台で初冠雪が確認できなくても、麓でははっきりと雪が確認できるという矛盾から、2006年から始めた。
市富士山課の「初冠雪確認担当」の職員3人が、それぞれ山頂を目視で確認している。初冠雪の可能性が高くなってくると朝6時には確認しているといい、こちらは引き続き、手法を変えずに宣言を続ける方針だ。「宣言を通して季節の訪れを伝えている」(同課担当者)ことが理由という。
同課の職員たちは、今年も山頂を気にかけ注視し始めているというが、同気象台によると、今季は平年より遅くに初冠雪となる可能性もあるとのこと。確認作業はもうしばらく続きそうだが、同課の担当者は「ぜひ宣言の発表日には、冬の装いとなった富士山の姿を楽しんでほしい」と話している。