交通事故の原因として、警察発表では安全不確認や脇見運転、動静不注視、漫然運転などが挙げられる。しかし、ノンフィクション作家の野地秩嘉氏は、これらは原因ではあっても真因ではないと指摘する。真因とは問題の根本的な原因であり、運転する人間の心のありようが事故に直結しているという。
2度の事故を経験した50代女性の告白
野地氏は『交通事故を20%減らした自動車保険あいおいニッセイ同和損保のつながる保険物語』(プレジデント社)の執筆にあたり、事故を経験した人々に「事故の真因とは何ですか?」と質問した。その中で、特に納得できる答えをくれたのが、浜松市出身で現在は豊田市に住む北川涼子(仮名)さん(50代)だ。
北川さんは公務員として働きながら、夫と二人暮らし。通勤には軽自動車を使用している。彼女は2度の交通事故を経験している。1度目は4年前、バックしてきた車に当てられた。2度目は一昨年の夕方、交差点で出合い頭に衝突した。北川さんは交差点に入る前に一時停止をしていなかった。どちらの事故も軽微だったが、彼女はこの体験を通じて行動を変えた。事故を起こさないためには、生活の考え方と行動を変えなければならないと痛感したからだ。
地方における車の必要性と免許返納の難しさ
北川さんは微笑みながら交通事故の真因を語った。「私は図書館司書として働いていて、通勤には軽自動車を使っています。うちは夫婦で1台ずつ持っています。田舎はもう車がないと不便です。ふるさとでも事情は同じ。おそらく東京とか大阪以外は車がなければ仕事もできないし、病院へ行くこともできないと思います。車のない生活は考えられません」
日本の都市圏以外では、自分が乗る車がなければ生活が成り立たない。高齢になって免許を返納すると、生活できなくなる。仮に自動運転バスが実現しても、地方では利用料が安くなければ利用できないだろう。野地氏は、利用料を安くするには自動運転車両はバスではなく軽自動車が望ましいと提案する。簡単に操作できる自動運転の軽自動車を開発・普及させれば、利用者はバスよりも慣れた軽自動車をいざという時に運転できる。軽自動車の自動運転乗り合いカーの実現が地方の交通を変える可能性がある。
心の余裕のなさが事故を招く
北川さんは、事故の真因は「心の余裕のなさ」だと語る。日常生活でスケジュールを詰め込みすぎると、運転中に焦りが生じ、一時停止を忘れたり、安全確認が疎かになったりする。彼女は2度の事故後、スケジュールに余裕を持たせ、運転中は「ひと呼吸おく」ことを意識するようになった。また、ドライブレコーダーの通信機能を活用したテレマティクス保険に加入し、自身の運転データを客観的に確認することで、安全運転への意識が高まったという。
野地氏は、データがあると事故後の対応が楽になるだけでなく、運転行動の改善にもつながると指摘する。北川さんも「ドライブレコーダーがしゃべることで、自分の運転の癖に気づけた」と述べている。
交通事故を減らすための具体的な対策
北川さんの事例から、交通事故を減らすためには、単に運転技術を向上させるだけでなく、生活全体の見直しが必要であることがわかる。具体的には、以下のような対策が考えられる。
- スケジュールに余裕を持たせ、焦りを排除する。
- 運転中は「ひと呼吸おく」ことを習慣化する。
- ドライブレコーダーやテレマティクス保険を活用し、運転データを客観視する。
- 地方では自動運転軽自動車の導入を検討する。
警察や損保会社の資料に列挙される「安全不確認」「脇見運転」などの原因は、あくまで表面的なものだ。真因は、運転者の心の状態や生活習慣にある。北川さんは「事故を起こさないためには、生活していくうえでの考え方と行動を変えなくてはならない」と強調する。この視点は、交通事故防止の新たなアプローチを示唆している。



