大阪市中心部の賃貸マンションに住む40代女性は今春、管理会社から届いた通知に衝撃を受けた。秋の契約更新時に、現在約16万円の家賃を10万円値上げするという内容だった。理由は記載されておらず、管理会社に問い合わせても「専有面積から算出している」とのみ説明された。夫婦と保育園児2人の4人家族で、転園の手間などを考えると退去は難しく、現在は値上げ幅の縮小に向けて交渉中だ。「仕事と育児に追われる中で家賃交渉も重なり、精神的にも体力的にも限界。裁判になればもたない」と訴える。
家賃伸び率、大阪が世界一に
日本不動産研究所の調査によると、2025年10月から2026年4月までの大阪のマンション賃料の伸び率は3.1%で、世界の主要都市の中で最も高かった。共働き世帯の増加により都心部の利便性への需要が高まる一方、大阪では物件供給が限られており、家賃上昇を招いているとみられる。
住宅情報サービス会社アットホームのデータでは、2026年5月のファミリー向け賃貸マンション(50~70平方メートル)の平均募集家賃は大阪市で16万8339円と、5年前の1.4倍に上昇。京都市では12万6847円(1.2倍)、神戸市では9万8725円(1.1倍)と、関西主要都市で軒並み上昇している。
相談件数が前年度の3倍に
入居中の家賃値上げに関する相談も急増している。大阪市立住まい情報センターへの相談件数は、2024年度の74件から2025年度には240件と3倍に。うち値上げ幅が1万円以上というケースが89件あり、「家賃を倍以上にするといわれた」という内容もあった。神戸市すまいの安心支援センターにも2025年度、23件の相談が寄せられ、「応じなければ強制退去になるのか」「納得できないが家主ともめたくない」といった声が上がっている。
東京都内でも同様の傾向が顕著で、都内51か所の消費生活センターには2025年度、家賃値上げに関する相談が1086件(速報値)寄せられ、前年度の517件から2.1倍に増加。都内では昨年、新たなオーナーが家賃を2~3倍に引き上げると通告した事例も発生し、都は2025年10月に賃料値上げ専門の相談窓口を設置。借地借家法に基づく助言や弁護士の無料相談を提供している。
借地借家法と合意の原則
家賃は民法に基づき貸し手と借り手の合意で定められ、一方的な値上げはできない。ただし、長期の賃貸借契約では、固定資産税の増加や近隣相場の変動により現状の家賃が「不相当」となった場合、借地借家法に基づき当事者が変更を求めることができる。合意が得られなければ、貸し手は裁判所に調停を申し立て、訴訟で相当性を争うことになる。
大阪弁護士会の増田尚弁護士は「契約時に合意した家賃は簡単に値上げできるものではなく、値上げに応じないという理由だけで退去を強制されることはない」と強調。貸し手が家賃の受け取りを拒否した場合には、「従来の家賃を法務局に供託することで、債務不履行による契約解除を回避できる」とアドバイスする。
大家側の負担も増大
一方、大家側にも値上げを迫る事情がある。物価高騰によりリフォームや修繕費、共用部の光熱費、管理人の人件費が上昇。都市部では地価上昇で固定資産税の負担も増している。不動産大手の大東建託は、グループで管理する約130万戸のうち、2026年末までに約50万戸で値上げを予定し、順次借り手に通知。同社は「宅配ボックス設置など付加価値を付けた上で値上げに応じてもらうケースもある」と説明する。
しかし、住人から合意を得られない大家も少なくない。神戸市の外郭団体「神戸住環境整備公社」の大家向け相談窓口には、「修繕費などが上がっているが家賃に転嫁できず、どうすればよいか」といった相談が寄せられている。



