北海道日本ハムファイターズ(以下、ファイターズ)の本拠地「エスコンフィールドHOKKAIDO」(以下、エスコンフィールド)。球場での熱狂の裏で、顧客データを活用し、熱量の高いファンを獲得するために奔走する若きエースがいる。
ファイターズ スポーツ&エンターテイメントで、29歳の若さでマネージャーとして活躍する北村拓也さん(29)。顧客データ基盤の構築やファンの育成、ファンクラブ運営などを担う「顧客マーケティンググループ」で、7月までグループ長を務めていた(※)。
※肩書はすべて取材時のもの。現在はプロダクトマネジメント部 チケットグループ グループ長
コロナ禍から本拠地移転へ
北村さんが新卒で入社した2020年以降、ファイターズ スポーツ&エンターテイメントは激動の道を歩んできた。
入社当時は新型コロナウイルスの影響で、会場に人を呼ぶことができない状況に。「通常の半分程度しかお客さまに来場していただけない状況だった」と振り返る。ファンクラブ会員数が減少する数年間を経験した。
2023年、同社は本拠地を北広島市のエスコンフィールドに移した。観戦環境の整備や施策面での制限が問題視されていた札幌ドームから、自前の球場への移転は大きな変化だった。
ファンクラブの全面リニューアル
本拠地移転に伴い、同社はファンクラブのリニューアルも実施。合わせてシステムの更新にも取り組んでいる。
コロナ禍による苦境から、本拠地移転へ。ファンクラブの全面リニューアルや新たな顧客データ基盤構築に最前線で取り組んだ若きリーダーは、激動の6年間をどう過ごしてきたのか。取材した。
「野球人口を減らさない」北海道へ移住
小学校から大学まで野球を続けてきたという北村さん。就職活動では、野球に携わる仕事か、地元の兵庫県に残って働くか――2つの軸で進めた。
スポーツメーカーやスポーツ新聞などの面接を受ける中で、ファイターズ スポーツ&エンターテイメントへの入社を決めた。同社は当時、エスコンフィールドの構想を発表しており、新たな挑戦ができる環境に惹かれたという。
兵庫県出身、広島県の大学に通っていた北村さんにとって、北海道への移住はハードルとならなかったのだろうか。「プロ野球業界で内定が出た以上、行く以外の選択肢はなかった。あまり深く考えず、何とかなるだろうと考えていました」(北村さん)
とはいえ、冬は厳しい北海道での生活は、大変なこともあると答えた。
入社後はファンクラブ部門へ
入社後は一貫して、ファンクラブを軸として、ファンのエンゲージメントを高めるための企画立案・実行を担う部署に所属してきた。「入社前から『野球人口を減らさないこと』に興味を持っており、BtoCの領域が自分にとってイメージしやすいかなと、人事とも話していました」
初期配属で所属したファンクラブグループでは、新規入会の受付やファンクラブ限定のキャンペーンの企画などを担当した。試合がある日は、札幌ドームで実際に現場に立つことも多かった。
プロ野球ファンであることは強みになった。自身が良いと思うものが、そのままファンにも喜ばれることが多いという。「自分の感性とファンのみなさんが感じるところが近いのは、すごくラッキー」だと話す。
2024年4月にはグループ長に就任。その後、組織変更などを経て、顧客との長期的な関係構築のために、CRM(顧客関係管理)やアプリなどを用いたファンダムマーケティングを担う「顧客マーケティンググループ」のリーダーを2026年6月末まで務め、組織をけん引してきた。
エスコンフィールド移転で大きく変わった
2023年のエスコンフィールド開業に合わせて、同社はファンクラブのブランドリニューアルとシステム更新を実施した。
従来の「ファイターズオフィシャルファンクラブ」を「ファイターズオフィシャルファンクラブFAV(ファブ)」(※)にリニューアルし、ロゴやサービス内容を一新。さらに、無料のアカウントである「F Villageアカウント」(FID)を導入し、顧客ID基盤の統合も進めた。入社2~3年目だった北村さんは当時、新しいファンクラブのロゴの作成や、キービジュアルの作成などを担当したという。
※「FAV」とは「FIGHTERS FAVORITE(=好き、お気に入りの意味)」の略
「ファイターズは50代、60代のファンの方に支えていただいています。今後は20代、30代のファンも獲得するため、若い世代にはどういった打ち出し方をすべきか、ファイターズを好きになってもらい、コアファンになってもらうためには何ができるかを考えながら取り組みました」
データ基盤の統合とFID導入
システム更新以前は、顧客情報はファンクラブ入会者のデータしか管理していなかったという。1年ごとに異なるデータで管理していたため「この顧客が過去にどのような特典を選択したか」などをさかのぼって確認することに苦労していた。単一のデータベースへと統合することで、過去のデータも一元管理できているという。
さらに、FIDの導入で無料会員登録を増やし、ファンクラブ加入者以外のデータ収集も開始した。「FIDを提供することで、無料アカウントの登録→有料ファンクラブへの導線を作っている」と北村さんは話す。
「これまでは『(ファンクラブに)入会しませんか?』と伝えられる機会が、球場しかありませんでした。無料アカウントが増えたことで、ファンクラブに入っていなくても球場に複数回来てくれている人、グッズを買っている人などを、データとして把握できるようになりました。ファンクラブの会員数を増やすにあたって、一番大きいポイントになっています」
施策面では「年間4回の来場」を、定着の一つのキーポイントと設定。一度来場したライト層に繰り返しエスコンフィールドを訪問してもらい、ファンクラブに入会してもらえるよう、カスタマージャーニーを設定し、球場とデジタル両方でコミュニケーションを取る。「キャンペーン施策と、オンラインでの販促をセットで設計することを重視している」と話す。
「FIDに登録した人には、メールやアプリ、LINEでチケット販売の案内を送付しています。これまでは球場でどうやって新規会員を獲得していくかの勝負だったので、今後はこういったデジタルの接点は積極的に活用していきたいです」
企画とオペレーション改革はセットで検討
札幌ドーム時代と今で、求められるスキルも変化した。自社運営の新球場では、施策の幅も大幅に広がった。「自分が手を動かし、周囲を巻き込んでいくことで、やりたいことを実現できる。そんな環境が、今のファイターズにはあると思っています」
「ファンにとって、会社にとってもプラスになることを思い付けるか。そして、それを実際に行動に移し、実現にどうつなげていくか――2点が求められていると考えています」
北村さんはこれまでも、ファン視点のアイデアを、オペレーション改革とセットで実行してきた。
例えば、ファンクラブ会員向けの来場特典の配布におけるオペレーションを変えた。
札幌ドーム時代は、入場ゲートで会員証をかざすタイミングで、ファンクラブ会員かどうかを確認。対象者にのみ特典を渡していた。何度も来場する顧客は、同じ特典を毎回受け取る形だった。
しかしエスコンフィールドでは、運用方法を変えることで、来場回数に合わせて、特典の内容を変えている。公式アプリ上でエスコンへの来場登録をする「チェックイン機能」を搭載し、来場登録を顧客自身で実施する仕組みに変更し、効率的に運用できるよう工夫した。
来場回数が多い顧客には日本ハムのギフトなどを、全試合訪問した顧客には選手のサイン入り全試合観戦証明書などを配布している。
「今までは人件費にお金をかけていましたが、ファンに喜んでもらうためにコスト面も意識して設計しています」
「コロナ禍」「3年連続で会員数減」と苦しい時期も
モチベーションをどう保った?



