「サタンが入り込む」ONE PIECEも禁書対象、米国で広がる図書館検閲の波
「サタンが入り込む」ONE PIECEも禁書対象、米国の図書館事情

米国の図書館で「禁書」の対象となる本が新型コロナウイルス禍後に急増している。性や人種、LGBTQ、暴力の描写が問題視されるケースが多いが、理由が明確でないものも少なくない。日本の漫画「ONE PIECE」「ジョジョの奇妙な冒険」「進撃の巨人」や、村上春樹作品も対象になったことがある。

テキサス州の小さな図書館で起きた論争

テキサス州の州都オースティンから車で1時間半ほどのリャノ郡は、人口2万人あまりの自然豊かな地域だ。図書館が3つあり、その一つキングスランド支所は人口7千人ほどの湖畔の地域にある。2021年、この図書館が突然、論争の舞台となった。

敬虔なクリスチャンのボニー・ウォレスさんは知人らに「サタンがこの町に入り込み、子どもたちを狙っている」というメールを送った。「行きつけの美容室で『Gender Queer』という本のイラストを見せられた。これが学校の図書館にあると聞き、頭を殴られたような衝撃を受けた。帰宅するとすぐ、郡判事、牧師、教師、教育委員など、知っている人全員にメールを送った」と振り返る。

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保守派議員による「クラウス・リスト」

ウォレスさんはその後、学校図書館と公共図書館から、彼女が「ポルノグラフィー」と表現する性的な内容を含む蔵書の撤去や閲覧制限を求める活動を始めた。その行動と前後して21年10月25日、テキサス州の教育庁や学区の教育長宛てに1通の要請が届いた。

送付したのは、テキサス州下院で一般調査委員会委員長を務めていたマット・クラウスさん(46)。共和党所属で、中絶禁止などを主張する保守政治家だ。要請では、添付リストに掲載された本が学区内にあるかどうか、リストになくても「人種や性別に起因して生徒に不快感や罪悪感・苦痛を与える可能性のある内容を含む書籍」があるかを確認してほしいとあった。この「クラウス・リスト」には約850冊が掲載され、LGBTQや性教育、人種に関する本が多く含まれていた。

禁書の背景にある宗教観と歴史修正主義

ニューヨーク在住ライターの堂本かおるさんは、アメリカの禁書には日本人に理解しづらい背景があると解説する。日本のマンガに対する「サタン」という表現はキリスト教由来だ。学校での禁書はそもそも黒人史の本から始まり、白人の親が「うちの子が罪悪感を感じてしまった」と訴えた。これは歴史修正主義だと指摘している。

批評家で日本映画大学准教授の藤田直哉さんは、多様性を扱ったものやクィアを扱った本まで「ポルノ」扱いされる文脈は恐ろしいと述べる。日本でも「ポルノ」の範囲が拡大される議論があるが、それはオタク文化などの性的な表現を指し、フェミニストを自称する人たちが問うていると続けている。

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