研究室で生まれた細胞が20年後、1人5000万円を超える治療として患者に届く。効果はまだ「推定」の段階。それでも国はなぜ承認し、公的保険で支えるのか。人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使ったパーキンソン病治療製品「アムシェプリ」と、重症心不全治療製品「リハート」は今年3月、世界初のiPS細胞由来の再生医療等製品として、条件・期限付き承認を受け、その後、保険適用が決まった。研究を国費で育て、患者へ届けながら効果を確かめる。夢の技術を医療にする国の仕組みを、文部科学省と厚生労働省への取材から検証した。
国費で育てた20年
山中伸弥・京都大教授がマウスからiPS細胞を作製したと発表してから20年。再生医療や創薬への応用を目指す研究には、多額の国費が投じられてきた。文科省によると、令和8年度までの、iPS細胞を含む再生・細胞医療と遺伝子治療の主要2事業の予算額は累計約1500億円。採択課題は延べ398件に上る。iPS細胞だけを対象にした金額ではないが、基礎研究から治療法開発、細胞の製造・品質管理、臨床研究や治験への橋渡しまでを支えてきた。
一方、重点的な支援には批判もあった。当時、他分野の研究者からは「iPSバブル」と皮肉る声や、「お金や人材の配分がいびつだ」「特定分野だけに研究費が集中して不公平だ」といった指摘も上がった。ほかの研究が細るのではないかという懸念だ。
承認は終着点ではない
そうした批判を抱えながらも、国は重点支援を続けてきた。研究成果を治療へ育てるには、安全性と有効性の確認、一定品質の細胞を作る技術、企業による製品化、医療機関の実施体制が要る。今年の2製品承認は、こうした20年の積み重ねの先にある。
ただし、承認は終着点ではない。一般の医薬品では、多くの患者を治療薬と偽薬などの集団に分け、結果を比較して効果を確かめることが多い。だが、再生医療等製品は対象患者が少ない病気も多く、人数が集まるまで待てば患者へ届くまでに長い年月がかかる。そこで設けられたのが条件・期限付き承認制度だ。少数の治験で安全性が確認され、合理的な根拠から有効性を推定できれば、条件と期限を付けて製造販売を認める。承認後を含め、なお「臨床開発の途中段階」にある。



