県都の安全を守るトップの責務
富山県内最大規模の警察署である富山中央署の署長、渡部高史氏(58)は、県都・富山市の中心部を管轄し、約260人の署員を指揮・監督している。住宅密集地であり、観光やビジネスで人の出入りが多いこの地域では、窃盗や特殊詐欺の捜査・抑止、交通事故対応など多岐にわたる業務が日々発生する。渡部署長は「署員を支え、背中を押すことが自分の仕事」と語る。
警察官を目指した原点
1968年、高岡市で生まれた渡部氏は、実家の精肉店の隣に交番があった。昼食や夕食時にコロッケを買いに訪れる警察官を見て育ち、自然と親しみを感じたという。幼い頃、家族で高岡駅に行った際、父親が「少し待っていて」と離れた隙に、2歳下の弟と不安になり交番に駆け込んだ経験も、「困ったときに頼れる存在」という警察への信頼を深めた。浪人中の19歳のとき、高岡署の警察官が自ら採用試験の願書を届けてくれたことが決め手となり、警察官を志望。「あのとき警察官が願書を持ってきてくれたから、今の自分がいる」と振り返る。
仲間のために尽くす精神
初任地の上市署での経験が、仕事への向き合い方を決定づけた。剱岳での山岳救助訓練中、上市署の山岳警備隊員が雪崩に巻き込まれ行方不明になった。隊員たちは体力を消耗しながらも「なんとしてでも、家族のもとに帰そう」と連日捜索を続けた。渡部氏は隊員ではなかったが、署で昼夜を問わず無線で状況報告を受け、同僚の分までパトロールに出るなど、巡査としてできることを模索した。4か月後、隊員の遺体が発見された。この経験から「一人は仲間のために、仲間は一人のために」という組織の絆を痛感し、警察の仕事にのめり込んでいった。
上司の一言が今も支えに
渡部署長は「署長は署員の背中を押す仕事」と説く。小さな仕事にも目を向けて評価し、署員が前向きに業務に取り組めるよう支える姿勢は、1998年に旧富山署刑事1課の刑事だった頃の経験に基づく。当時、中国人の窃盗容疑者を自供させ、事件を解決した。外国人聴取は初めてで、容疑者は片言の日本語しか話せなかったが、通訳と協力し1週間ほど粘り強く説得した。翌朝、署内ですれ違った当時の署長が「自供させてくれてありがとう。よくやってくれた」とほほえみかけた。それまでほとんど会話がなかった上司のねぎらいの一言は、約30年たった今も忘れられないという。
趣味と日常
趣味は読書で、主に歴史小説を愛読する。お気に入りは安部龍太郎の「家康」。「同じ歴史上の人物も、描き方は作家によって異なる。教科書には描かれない様々な一面に出会える心地よさがある」と語る。好きな食べ物は麺類で、富山市花園町にある「中華蕎麦 はし本」に頻繁に通う。
富山中央署の概要
富山中央署は2005年に富山署から改称され、2017年に現庁舎へ移転。2020年には署の再編により富山北署が統合された。富山駅前交番や新庄交番など19の交番・駐在所を管轄する。署長の階級は県内14署で唯一の警視正で、他の13署は警視である。



