「ツーリストシップ」考案の女性、京都発の理念が全国へ…観光施策に導入20自治体
「ツーリストシップ」考案の女性、京都発の理念が全国へ

旅先を大切にする旅行者の心構えを表す「ツーリストシップ」という言葉が、全国の観光施策に広がりを見せている。考案したのは、京都での大学時代にオーバーツーリズム(観光公害)の問題を実感した女性だ。言葉が生まれてからの5年間で、観光施策に導入した自治体や観光協会は約20に達し、中学の教科書にも取り上げられた。

京都での体験がきっかけ

一般社団法人「ツーリストシップ」(京都市)の代表理事、田中千恵子さん(28)は高校卒業後、京都大に進学し、埼玉から京都に引っ越した。桜の時期に大学近くの散策路「哲学の道」を散歩したり、銀閣寺に紅葉を見に行ったりして、京都観光を楽しんだ。

大学3年だった2019年、ニュースで「オーバーツーリズム」という言葉を知った。それまであまり意識せずにいたが、観光シーズンに大混雑で路線バスに乗れないなど、思い当たることはあった。実情を知ろうと、寺社や商店街で住民や観光客らに話を聞いて回り、「地元住民が優遇されて当然」「もてなされて当然」という双方の意識が摩擦を生んでいると感じた。

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言葉の誕生と普及への歩み

19年に1人で団体を設立。観光客と住民が互いに寄り添う意識を促すため、わかりやすい言葉を作りたいと、「トラベラーシップ」「ツーリストスピリット」など複数の候補を考案した。外国人を含む観光客らに聞き取りをした結果、「ツーリストシップ」が「わかりやすい」と評判が良く、21年から使用を始めた。

22年に団体名を一般社団法人「ツーリストシップ」に変更し、「ツーリストシップ」を商標登録した。大学卒業後も就職はせず、賛同する企業からの寄付金や自治体からの受託料などを得て、仲間数人と活動を行ってきた。

クイズ大会で理念を発信

講演や修学旅行生向けの研修などに取り組んでいるが、特に力を入れるのが観光地でのクイズ大会だ。

「日本の街にはごみ箱が多い。マルかバツか?」「バツさ。少なすぎて(ごみを)ポケットに入れて持ち運んでいるよ」「正解。一緒にきれいな街をつくっていこう」。7月の週末、東京・浅草で行われたクイズ大会。田中さんやボランティアが観光客に声をかけ、2時間で109人が参加した。ごみの持ち帰りや地元の歴史に関するクイズを英語で出題し、最後にツーリストシップという言葉や考え方を説明した。

参加者の一人で、米国から観光で訪れたドリュー・マクマーラさん(43)は「旅先の文化を尊重することは大切で、もっと広まるべきだ」と話した。クイズ大会はこれまでに全国の観光地で250回以上開催した。

自治体導入と教科書掲載

ツーリストシップの考え方を観光施策に取り入れる動きも表れ、これまでに約20の自治体、観光協会と連携してシンポジウムを開くなどした。福岡県太宰府市は25年、「4つのツーリストシップ」と題し、英語や韓国語など五つの言葉でチラシを作った。沖縄県石垣市も「ツーリストシップ石垣島4ヶ条」で、自然の保護や神聖な場所への立ち入り禁止などを呼びかける。

25年に教育出版から発行された中学の公民の教科書は、コラムでツーリストシップの言葉を掲載。「持続可能な観光の実現と、『ツーリストシップ』を世界の常用語にすることを目ざし、活動を続けています」と田中さんを紹介している。

7月下旬には渡米し、各国の観光関係者が集うイベントで講演した。参加者からは「意図が分かりやすく共感できる」といった感想が多く寄せられたという。

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田中さんは「旅行者のイメージが肯定的なものになり、旅先の地域が経済的にも文化的にも豊かになるよう、言葉を広げていきたい」と話した。世界の「常用語」を目指し、さらなる普及に取り組む。

◆オーバーツーリズム=一部の地域に観光客が集中し、過度の混雑やマナー違反などで住民生活や自然環境に悪影響を及ぼしたり、観光客の満足度が低下したりする状況を指す。観光客の受け入れと住民生活の質を両立した「持続可能な観光」の実現に向けて、各地で取り組みが進められている。