水俣病患者の男性が原因企業「チッソ」社員に対する傷害罪に問われた刑事裁判で、最高裁が1980年に判断する際、裁判官の議論を補佐するために調査官がまとめた非公開の報告書が見つかった。裁判では、検察による起訴(公訴)を不当として無効にすべき場合があるかが焦点になり、最高裁は極めて厳格なハードルを設けた。後の裁判の実務に影響を与えた判断の背景に迫る貴重な資料だ。
事件の経緯と裁判の争点
事件が起きたのは72年。補償交渉でチッソ本社を訪れた水俣病患者連盟の川本輝夫さん(故人)らを社員がスクラムを組むなどして阻んだため、小競り合いが起きた。この際に川本さんは複数の社員に軽傷を負わせたとして起訴された。
裁判では、検察が起訴してはならない事件をあえて起訴する「公訴権の乱用」をしたか否かが争われた。一審・東京地裁は、川本さんを罰金5万円執行猶予1年の有罪としたが、二審・東京高裁は「差別的な起訴だ」との弁護側の主張を認め、裁判を打ち切る「公訴棄却」とした。水俣病の被害拡大を防げなかった国の責任の重さや、小競り合いで患者側もけが人が出たのにチッソ側が起訴されなかった点を重視した。
調査官の報告書の内容
最高裁第一小法廷では、公訴権乱用の考えを認められるかが焦点となった。審議を補佐した調査官が渡部保夫氏(故人)だった。調査官は地裁などで経験を積んだ裁判官が担い、事件の事実関係を精査し、過去の裁判例や学説を調べて報告書にまとめる。最高裁の裁判官はこれをもとに議論する。
渡部氏は報告書で、一般論と…この記事は有料記事です。残り634文字有料会員になると続きをお読みいただけます。



