水俣病患者の男性が原因企業「チッソ」社員への傷害罪に問われた裁判で、1980年の最高裁の決定は、男性の起訴を無効とした東京高裁の結論を支持した。この決定を担った5人の裁判官の議論を補佐するために「調査官」がまとめていた報告書が、見つかった。
異例の判断の裏に何があったのか
公になるのが極めて異例の調査官報告書や関係資料を分析した研究者は、裁判官たちの「ギリギリの攻防」があったとみる。
最高裁の大半の事件は、裁判官が5人ずつ所属する三つの小法廷が結論を出す。この決定を出した第一小法廷は、藤崎万里(裁判長、行政官出身)▽団藤重光(学者出身)▽本山亨(弁護士出身)▽中村治朗(裁判官出身)▽谷口正孝(同)――の5氏だった。
調査官報告書が示した「積極説」
最高裁裁判官が審議する際に「前さばき」をするのが調査官だ。事件の事実関係や過去の裁判例、学説を調べて報告書にまとめ、考えうる判断の方向性も示す。
この事件で調査官を務めた渡部保夫氏は報告書で、地高裁の裁判例や学者約20人の意見などを検討。検察官の起訴が乱用にあたる場合がありうるとする「積極説」を主張した。
3対2の賛否、刑事法の大家が動いた
第一小法廷は、乱用が「ありうる」と認めたものの、男性の起訴は乱用とはいえないと指摘。ただ、処罰しないことは著しい不正義ではないとして、高裁による公訴棄却の判断を追認した。この結論には5人の裁判官のうち3人が賛同し、2人は反対していた。
報告書を見つけた成城大の指…この記事は有料記事です。残り1190文字有料会員になると続きをお読みいただけます。



