四万十市不破の元中学校校長でウミガメの保護研究家、溝渕幸三さん(79)が、自ら撮影した写真に自作の漢詩を重ねた「漢詩写真展」を、黒潮町入野の大方あかつき館で開いている。昨年3月に交通事故に遭い、重傷を負ったが、懸命のリハビリと友人らの支えで、18回目の作品展を開催できるまでに回復した。
事故からの回復と再起
溝渕さんが交通事故に遭ったのは昨年3月。黒潮町の国道56号を高知市に向かっていたところ、対向車線をはみ出してきた乗用車と正面衝突した。乗っていた軽乗用車は大破し、溝渕さんは全身打撲で、ドクターヘリで高知市の病院に緊急搬送された。
複数の骨折があり、身動きが取れない状態だったが、根気強くリハビリを続けた。約1か月後、ゆっくりだが、右手の指先を動かせるように。さらに支えがあれば立てるようになり、半年後に退院。歩行器による歩行訓練を続けるなか、一つの目標を立てた。「18回目の漢詩写真展を開く」と。
展示作品と最新作
回復した右手の指先でパソコンを開き、保存していた約2万枚の写真画像を一枚一枚チェック。ライフワークのウミガメ保護に関する写真をはじめ、四万十川流域にかかる沈下橋や四季折々の風景、日常生活を送る人々の表情など、記憶に残る写真を選び、漢詩を作った。
展示点数はA4判にプリントした100点と、看板用の全紙サイズ1点。作品の額装は、溝渕さんと四万十市でウミガメ保護に取り組む楠本正志さん(77)が引き受けた。
同展開始後の7月下旬、溝渕さんは、幼なじみに車いすを押してもらい、会場を訪れ、かつての同僚や教え子らに作品について解説した。
最新作は「病床撮影」。6月の早朝、リハビリで入院した黒潮町の病院で撮影した。カメラが持てないため、個室の窓枠にカメラを固定してもらい、職員に支えてもらってシャッターを切った。夜と朝とが交わってできるピンク色の空が撮影できた。「1年3か月ぶりに『カシャッ』という音を聞けた」と感激する。
今後の目標
溝渕さんの目標は、第19回の開催と、「だるま朝日」の撮影。海上の天候など条件が整わなければ出現しない自然現象だが、これまで775回の撮影に成功しており「1000回を目指したい」と力を込める。
同展は19日まで。休館日は木曜日と11、15日。無料。
ウミガメ保護と撮影の原点
溝渕さんが、ウミガメ保護と写真に本格的に取り組むようになったのは35年ほど前。当時、教頭として勤務していた下ノ加江中学校に、進行性筋ジストロフィー症の少年が入学してきた。病状は進み、車いすでの生活だったが、明るく、クラスメートともすぐに打ち解けた。
中学校前に広がる砂浜では初夏にアカウミガメが上陸する。穴を掘って卵を産み、50~60日後、子ガメたちが穴からはい出し、太平洋に旅立つ。少年と級友が一緒になって卵を守り、子ガメたちを送り出すことを通して、「命」について考えてもらおうと思い、記録に残すため、常時、コンパクトカメラを持ち歩くようになった。
「孵化した子ガメを手の上に乗せてあげた時の笑顔は忘れられん」と、溝渕さんは振り返る。
少年は卒業を前に亡くなった。海岸の入り口には、少年が好きだった詩人谷川俊太郎さんの詩「生きる」を参考にして作った詩「生きているということ」の一文を添え、ウミガメ保護を訴える看板が立っている。



