「餃子(ギョーザ)の王将」を展開する「王将フードサービス」の社長だった大東(おおひがし)隆行さん(当時72)を射殺したとして、殺人と銃刀法違反の罪に問われた特定危険指定暴力団工藤会系組幹部、田中幸雄被告(59)に16日、京都地裁は無罪判決(求刑・無期懲役)を言い渡した。
争点は実行犯かどうか
判決理由の要旨によると、本件は被告人が氏名不詳者らと共謀の上、当時王将フードサービス代表取締役社長であった被害者に対し、同社駐車場において、拳銃から弾丸4発を発射して殺害したという殺人、銃刀法違反と上記拳銃の加重所持の事案。争点は、被告人が実行犯と認められるかどうかである。
検察官は、①犯行当日に犯行現場近くの王将別館東側通路に遺留されていた吸い殻2点は、実行犯が被害者を待ち伏せた際に喫煙して遺留したものであり、DNA型が被告人のものと一致する唾液が付着していたこと、②実行犯が本件各犯行現場からの逃走に使用したバイク(カブ)を窃取した者は、被告人がCに借りた車(ライフ)が関与する関連バイク(トゥデイ)の窃盗関与者であり、そこにも被告人の関与が認められること、③ほかにも被告人が実行犯であることと整合する事実が存在することから、被告人が実行犯であることの証明は十分であると主張した。
間接事実の推認力を否定
これに対し、当裁判所は、間接事実①につき、吸い殻は、被告人が喫煙したものと認められるが、別の真の実行犯が持ち込んだり、被告人が犯行とは別の機会に、上位者等に命じられ、具体的計画を知らされずに下見や被害者の行動確認等を行った際に遺留したりした可能性を排斥できないと指摘。間接事実②につき、トゥデイの窃取にCライフが用いられたとは断じ難く、仮に、そうであっても、被告人自身がトゥデイの窃取に関与していたとは認定できず、そもそも、トゥデイが犯行に使用されたり、これを窃取した者がカブの窃盗に関与したりしたとも認定できないから、被告人が実行犯であることを推認させないとした。
間接事実③のうち、証拠上認定できる事実は、被告人が実行犯でなくとも合理的説明がつく事実ばかりで推認力が乏しいとし、間接事実①ないし③を総合考慮しても、証拠上認められる間接事実中に、被告人が実行犯でないとしたならば合理的に説明することができない(あるいは、少なくとも説明が極めて困難である)事実関係が含まれているとはいえず、犯罪の証明がないと結論付けた。
吸い殻の遺留時期と消火場所
間接事実①について、吸い殻の収集、運搬、保管に当たった捜査官やDNA型鑑定をした研究員らの証言に問題はなく、吸い殻2点は被告人が喫煙した後のものと認定できるとした一方、遺留された時期については、王将元従業員Bの「犯行前日の朝、東側通路を歩いた際、吸い殻は落ちていなかったと思う」との証言について、Bは清掃等の業務に専従しておらず、明らかに目立つといえないごみの有無まで意識していたわけではなく、当日雨天の中、傘を差さずに仕事のことを考え歩いていた可能性があると指摘。吸い殻が小さく、西寄りに落ちていたこと、東側通路がさほど明るい場所ではなく、犯行後の実況見分に参加した一部の警察官も落ちていた吸い殻に全く気付かなかったことなどから、吸い殻2点は明らかに目立つものとはいえないとし、Bの証言の証明力には限界があるとした。
また、吸い殻2点はさほど劣化していない状態で発見され、東側通路をふだん従業員がバイク等で通行し、犯行前日は雨天であったことを踏まえても、吸い殻の遺留位置等から踏み付けられることなく発見されても不自然ではないし、吸い殻の遺留後、発見時までの経過時間は客観的に明らかでないから、犯行前日の朝よりも前の時点から吸い殻が東側通路に遺留されていた可能性を否定できないとした。
喫煙・消火された場所については、火災原因鑑定を専門とする証人が「喫煙後5秒程度で熱エネルギーが奪われて消火されたたばこの巻紙燃焼端は不均一になること、犯行当日東側通路が湿潤していたこと、捜査官によるたばこの消火実験から、発見された吸い殻のうち巻紙燃焼端が不均一なものは、喫煙直後に湿潤していた東側通路の路面で消火されたと推定できる」と証言したが、たばこの熱エネルギーが急速に奪われる過程としては、湿潤路面に触れる以外にも様々なものが考えられ、巻紙燃焼端が不均一であった点のみから、上記吸い殻が湿潤路面に触れて東側通路で消火したとはいえないと判断。湿った状態で発見された上記吸い殻は、ポリ袋に入れられた上で紙封筒に封入されて自動車で科捜研に運ばれたにすぎないのに、折れ曲がったり、しわができたり、刻みが脱落したりしておらず、何らかの容器に入れてある程度安定した状態を保っていれば、別の場所から東側通路まで発見時と同じ状態で運べたと考えられるとし、吸い殻の形状に基づく上記証人の供述によっても、吸い殻が別の場所で喫煙・消火された後、東側通路に運ばれた可能性を排斥できないとした。
さらに、吸い殻の発見時の拡大写真やこれを画像処理したものを見ると、吸い殻の周囲には、その後同じ場所を撮影した写真上確認できない15個の黒色様微物が確認でき、上記証人は、これらは全体がべたっと黒く、吸い殻近くにあり、いびつであることから、火種の炭化物と考えて矛盾がないと証言している。しかし、上記証人も炭化物と考えて矛盾がないと述べるにとどまるし、画像処理結果を踏まえても、上記黒色様微物が周囲の路面と比較し、炭化物の特徴である完全黒体に近い黒さを備えたものとまではいえないと指摘。また、吸い殻発見日には、東側通路の他の場所の状況を詳細に確認できる写真が撮影されておらず、たばこをたたき付けた際に火種が飛散する範囲以外の場所にも同じような黒っぽい微物が存在した可能性があるとした。
捜査官らによる消火実験の際、たばこを路面にたたきつけて消火しても火種の炭化物の全部又は一部が巻紙内に残存していたものが多数存在し、それらの火種の炭化物の多くはプラスチックケースに採取される際にも巻紙から脱落しなかったと認められる。したがって、仮に発見時に吸い殻の周囲に火種の炭化物が落ちていたとしても、それらは、火種の炭化物が巻紙内に残存する状態で採取され、何らかの容器に入れられて東側通路に持ち込まれて遺留された際に、吸い殻と一緒に飛散したものである可能性が否定できないとした。
以上から、吸い殻の形状や発見時に周囲に黒っぽい微物が存在したことから、吸い殻が東側通路で喫煙・消火されたとは認定できないと結論付けた。