「餃子の王将」運営会社の社長だった大東隆行さんが平成25年12月19日朝、京都市で射殺された事件で、殺人罪などに問われた特定危険指定暴力団工藤会系組幹部、田中幸雄被告に、京都地裁は無罪(求刑・無期懲役)を言い渡した。
無罪判決が示したもの
大東さんは毎日早朝に出勤し、長靴姿で本社前の掃除をするのが日課だった。その大東さんを犯人は4発銃撃し、逃げ去った。周囲は閑静な住宅街でもある。残虐で卑劣な犯行だ。
これほどの大事件で犯人性を立証しきれず、無罪判決となったのは痛恨の一言に尽きる。被害者遺族や国民の側からすれば「立証が不十分だった」のか、「犯人性の見立て違い」なのかが判然とせず、不満が募る。「この事件は何だったのか」という「筋」が分からなくなってしまったことで、社会不安が強まってしまうだろう。
状況証拠の評価
この事件には直接の物証がない。目撃者もいない。凶器の銃も未発見だ。検察が被告を起訴した根拠は状況証拠の積み重ねだったが、地裁判決はこれら証拠群を厳格に評価した。
現場近くで発見され、被告と同じDNA型が検出されたたばこの吸い殻については一定の犯人性を認めながらも、「別の場所から持ち込まれた可能性を排せない」「捜査攪乱の可能性を否定できない」と指摘し、被告が実行犯と認定できるほど強い推認力はない、とした。
事件前日に被害者宅近くの防犯カメラに写った人物が被告に似ていることも検察は状況証拠の一つにしたが、判決は犯人性の推認力は「極めて限定的」とした上、他の証拠の証明力も乏しいとして「被告が実行犯でないとしたら、合理的に説明できない事実関係が存在しない」と無罪判決を導き出した。
今後の課題
状況証拠の総合評価について、最高裁判例に沿った常識的な判断方法といえるだろう。ただ、治安の面からみれば、無罪は由々しき事態である。法治国家のただ中で振るわれた残虐な暴力の正体を、国家として暴くことができないふがいなさは深刻だ。
事件は終わっていない。法曹と警察は真相解明をあきらめてはならない。