大阪市西成区で子ども食堂を運営するNPO法人「西成チャイルド・ケア・センター」が今夏、複雑な環境にある母子が無料で宿泊できる支援施設「にしなり☆はぐくみの家」を区内に開設した。代表の川辺康子さん(60)は「安心して過ごせる『地域の実家』になりたい」と話している。
施設の概要と現状
8月下旬、「にしなり☆はぐくみの家」という小さな看板が施設に掲げられた。3階建てで個室が8室あり、各階に共用の台所、風呂やトイレが備わる。
川辺さんによると、これまで小学生延べ13人(8日現在)が宿泊。親の仕事で夜通し1人で過ごす子らで、「すごく広い!」と驚き、リビングで過ごしたり、朝食をみんなで食べたりしたという。
今は数日程度の滞在だが、いずれは母子で最長半年ほど、一緒に生活してもらうことを想定している。施設には川辺さんらスタッフが常駐し、食事は子ども食堂向けに寄付された食材などでまかなう計画だ。
「一方通行」の限界と親支援の必要性
川辺さんは長年、西成区で子ども食堂を運営し、次第に「数時間、食事を共にするだけでは救いきれない」と感じるように。夜に親が家にいなかったり、家の電気が止まっていたりする子どももおり、「熱いうどんを食べるのに、フーフーと息を吹きかけて冷ますことすら知らない子もいた」と振り返る。
一方、親も同様の環境で育ち、問題があると自覚していないケースも多く、「子どもを支えるためには親も支えないといけない」との思いを強くしたという。
母子生活支援施設など公的な施設の役割は理解しつつ、「行政的な一方通行の関わりでは限界がある」と川辺さん。一緒に晩ご飯を食べたり、洗濯したりといった、何げない暮らしを共にする「実家」のような存在が地域に必要だと訴える。
共感の輪と資金調達
施設は、同法人が西成区内の建物を今年1月に1億3000万円で購入し、改装。資金は今春実施したクラウドファンディングや遺贈寄付、支援者からの借り入れなどで集めた。
100万円を寄付した大阪市の不動産会社社長、大房謙太さん(39)は「親も支えるべきという思いに共感した」と語る。毎月、同法人の子ども食堂に社員と足を運んで誕生日ケーキを振る舞ったり一緒に遊んだりしており、「川辺さんは子どもたちに寄り添い、本当に安心できる場所を作っている」と言う。
同区出身の川辺さん自身も暴力のある家庭で育った。自身が親となり子どもとの向き合い方に悩んだ時、母親仲間ら周囲に支えてもらった経験が根底にあるという。
川辺さんは「人生の途中で立ち止まり、生活を立て直すための場所にしてほしい。子ども食堂が広がったように、何かしたいと思っている人の行動のきっかけになれば」と話している。
公的支援制度の現状
様々な事情を抱える母親と子どもが暮らせる公的な施設には、児童福祉法に基づく母子生活支援施設がある。全国に約200か所あり、自治体が設置する福祉事務所に相談して入所する。経済的に困窮するひとり親家庭のほか、近年は配偶者によるDV被害を理由とした入所が6割を占める。
そのほか、こども家庭庁の子育て短期支援事業では、仕事や病気、育児疲れなどで親による養育が困難な場合、一定期間子どもを預かる「ショートステイ」という制度がある。
事業費は、国、都道府県、市町村が各3分の1を負担。多くの自治体が7日程度、子どもを児童福祉施設などで預かっており、保護者が申し込み、所得によって利用料が決まる。
子ども食堂の草分け的存在
川辺さんは西日本の子ども食堂の草分け的な存在だ。2010年頃から西成区内で子ども食堂を始め、多くの親子に関わってきた。
中学1年の長女(12)と小学5年の次女(11)を育てるシングルマザーの女性(33)も、そのひとり。自身も母子家庭で育ち、20歳の時に長女を出産した。
「子どもが学校に行かなくなるなど誰に聞けばいいかわからない悩みばかり。自分の母親からは『頼ってこんといて』と言われてきた」と語る。川辺さんの子ども食堂に通い、子どもとの間に入ってもらうこともあったという。
「いつも『大丈夫』って言うけど、ほんまに大丈夫なん?」。最近もそう声をかけられた。「川辺さんの前では『しんどい』と口にできる。私と同じように悩みを抱え込んでいる人に、新しい居場所の存在が届けば」と話す。
NPO法人「西成チャイルド・ケア・センター」への問い合わせは、ホームページ(https://n-ccc.org/index.html)へ。