遠い昔、関門海峡沿いの集落に住んでいました。大河のような海峡は当時、南方や中国大陸を行き来する船舶でにぎわっていました。
やがて戦争が始まると軍艦が通過するようになり、その度に私たち子供は「バンザーイ」「バンザーイ」と見送るのでした。そして士官や水兵さんたちが答礼したり帽子を振ってくれると飛び上がって大喜びしたものです。
輸送船との出会い
ある日、甲板に鈴なりの兵士を乗せた輸送船が駆逐艦の先導でゆっくりと進んできました。私たちはいつものように「バンザーイ」「バンザーイ」と手を振ったのですが、水兵さんたちの静かな反応と違い、兵隊さんたちは激しくちぎれんばかりに帽子を振り、大声で何かを叫んでいるようでした。
これから戦場に赴くあの人たちは、日本の家並みや手を振る子供たちを間近に見るのはもしかすると最後になるかもしれないと、記憶に留めようとし別れを惜しんで懸命に叫んでいたのでしょう。「サヨウナラー」「サヨウナラー」…と。
別れの汽笛
やがて惜別の兵士を乗せた輸送船は一声の汽笛を残し、ゆっくりと遠ざかっていきました。
山崎保(93) 東京都杉並区



