「石川県警察本部です。あなたのキャッシュカードと通帳が悪用されているため使用できません。全て警察本部で預かるので他の者が取りに行きます」。3月上旬のある日午後4時半ごろ、金沢市の女性(86)の自宅にこんな電話がかかった。電話口の男はそう告げた。
女性は次女と2人暮らし。この日は関東で暮らす長女が仕事で金沢に来ており、実家に帰省する日だった。長女の帰りを楽しみにしていて、いつも以上に夕飯の支度に力を入れ、忙しくしていた。電話には番号が表示されない。親戚などからの電話が多いため、反射的に受話器を取った。
警察から電話がかかってくるのは初めてで「どきどきして怖かった」と振り返る。警察本部と言われて信じてしまい、「悪用されて危ないのであれば預けよう」と考え、受け取り人を待つことにした。
電話から約5分後に男が来訪
電話を終えてから約5分後、自宅のインターホンが鳴った。玄関のドアを開けると、帽子、長袖、長ズボン、靴も全て黒色の中肉中背の男が立っていた。「警察本部の警察官です」と言ったが、名前は名乗らなかった。女性がキャッシュカード2枚と通帳2冊を差し出すと、「新しいカードなどを持ってきます」と言い残し、急ぐようにその場を離れた。
それから5時間ほど経過した午後10時ごろ。家族で夕飯を食べ終わっても、誰もカードを持ってこなかった。この時初めて怪しいと感じた。警察官であるはずなのに、男の服装が全身真っ黒だったことも不審に思えてきた。「自分でなんとかしなければ」という責任感から、同居する次女に相談せずに110番した。結果、だまされていたことが分かった。
被害額は55万1000円 暗証番号を通帳に記載
口座から引き出されていたのは計55万1000円。暗証番号は、忘れた時のために通帳に書き留めていた。ATMでは1日の引き出し限度額が50万円だったこと、同日中に詐欺被害に気づいてキャッシュカードと通帳を利用停止にしたことから、さらなる被害は防げた。
被害に遭った後、女性は自宅に防犯カメラを取り付け、固定電話の契約を解除した。携帯電話には詐欺電話対策のアプリを入れたという。「後から落ち着いて考えたら怪しい、詐欺だとわかる」。町内の回覧板でも注意喚起があったが、「いきなりのことで余裕がなかった」と振り返る。
「自分のことは自分でせなと思っていた。けれど大事なことは相談しないと」。今後は二度と詐欺に遭わないよう、相談することを心がけているという。
「典型的な預貯金詐欺」と石川県警
石川県警組織犯罪対策課匿名・流動型犯罪グループ対策室の田中辰之室長は「今回の詐欺は、典型的な預貯金詐欺といわれる手口だ」と話す。電話をかけてきたのは偽の警察官だったが、親族を装ってかけてくることもあるという。口座が犯罪に利用されているとうたってカードや通帳をだまし取るのが手口だ。
女性宅に電話がかかってきてから現金が引き出されるまでの時間は約30分。長く同じ場所に住んでいる場合は卒業アルバムなどから氏名、住所、電話番号がまとまって流出している場合もあるといい、「犯人が女性宅に電話をかけた際には、キャッシュカードの受け取り役が付近で準備していた可能性がある」と分析する。
「国際電話や非通知の番号、知らない番号には出ないということが一番の対策だ」と強調する。万が一、いつもの癖で電話に出てしまっても、「電話口で言われたことだけで判断せず、一度電話を切って着信履歴から電話番号を調べたり、家族に相談したりするのが防犯につながる」と警鐘を鳴らす。



