人気のショーで活躍していたアシカが死亡した。その死因を調べるため解剖が行われた結果、心臓に「そうめんのような」形状の寄生虫が発見され、同時に肝臓がんが全身に広がっていたことが明らかになった。この事例は、動物園における獣医師不在の深刻な実態を浮き彫りにしている。
皮膚炎の原因は感染症か?
依頼者からは、皮膚炎の原因が人間に感染する病原体ではないかとの懸念が寄せられていた。もし感染症が死因であれば、同じ施設で飼育される他の動物や、飼育員、ショーで接近する来園者への対策が急務となる。しかし、この施設には動物の病気に関する専門知識を持つ獣医師が常駐していなかった。
「なぜ死んだのか」を曖昧にできないという判断から、外部の専門家による解剖が実施された。
解剖で明らかになった所見
体重100キログラムを超える遺体の解剖では、まず外部観察が行われた。皮膚の一部は脱毛し、炎症による発赤が見られた。まぶたの結膜はわずかに黄色く変色しており、軽度の黄疸が疑われた。しかし、毛で覆われた動物では外見からの黄疸判断は難しく、解剖時の皮下観察が重要となる。
分厚い脂肪層を切開すると、腹腔から大量の黄色く濁った腹水が流出した。皮下組織も黄色みを帯びており、黄疸の存在が確認された。腹水と黄疸は、肝機能低下を示唆する所見である。
肝臓がんと寄生虫の発見
肝臓は表面がぼこぼこした形状で、肉眼でも明らかな複数の腫瘍が確認された。その後の組織検査でがん細胞が検出され、肝臓がんが肝臓全体に広がっていたことが判明した。さらに、心臓からは「そうめんのような」形状の寄生虫が発見された。寄生虫の種類は特定されていないが、アシカの死因に何らかの影響を与えた可能性がある。
皮膚炎の原因は感染症ではなく、肝臓がんに伴う全身症状の一部であった可能性が高い。しかし、専門の獣医師がいなければ、こうした診断は困難である。
獣医師不在の実態
日本の多くの動物園や水族館では、常勤の獣医師が不足している。特に地方の小規模施設では、病気の動物の診断や治療が外部委託に頼らざるを得ない状況が続いている。今回の事例は、獣医師不在が動物の適切な医療を妨げ、感染症リスクの見逃しや、飼育環境の改善遅れにつながる危険性を示している。
専門家は「動物園や水族館には、最低でも1名の常勤獣医師を配置すべきだ」と指摘する。しかし、予算や人材確保の難しさから、改善は進んでいない。
死んだアシカは、その死を通じて、動物園が抱える構造的な問題を私たちに突きつけている。



