現職検事の付審判初公判、無罪主張「職務に基づいた取り調べ」…上司ら映像問題視せず
現職検事の付審判初公判、無罪主張 上司ら映像問題視せず

現職検事の取り調べを裁く異例の刑事裁判が大阪地裁で始まった。大阪地検特捜部が捜査した業務上横領事件を巡り、特別公務員暴行陵虐罪で付審判決定を受けた田渕大輔被告(54)は10日の初公判で無罪を主張。検察官役の指定弁護士は冒頭陳述で、大声で叱責した被告の取り調べを詳述し、検察組織の姿勢にも言及した。

初公判の詳細

午後1時30分、地裁の大法廷。田渕被告は大森直子裁判長に一礼し、落ち着いた表情で証言台の前に座った。人定質問で職業を問われ、「検察官です」と答えた。罪状認否では、書面を見ながら淡々と話した。

田渕被告は2024年6月、事件の捜査を巡る国家賠償請求訴訟で証人出廷し、自身の取り調べについて「言葉に不穏当なものがあった。全く非がないとは思っていない」と述べていた。しかし、この日は「検察官の職務に基づいて行った取り調べで、陵辱や加虐の意図はない」と罪の成立を否定した。

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取り調べの実態

指定弁護士の冒頭陳述によると、田渕被告は業務上横領事件の捜査で、不動産開発会社「プレサンスコーポレーション」(現・プレサンス)の元部長(61)(有罪確定)の取り調べを担当。2019年12月6日、元部長に対し、容疑者の声に耳を傾けることなどを定めた「検察の理念」を読み上げ、取り調べは録音・録画(可視化)されていると告げた。その上で「上級庁から厳しい目で見られている。過ちを犯さないように。でもね、一つも気にしてないもん。私言っていること間違ってると思わないから」などと発言した。

同8、9日には、社長だった山岸忍氏(63)(無罪確定)の関与を認めさせようとする中で、机を強くたたき、「こんな見え透いたウソついて。なんだ、その悪びれもしない顔は」などと迫った。

組織の問題

田渕被告による取り調べの映像は、特捜部の副部長と、捜査をチェックする公判部の検事2人が確認していたが、大きく問題視することはなかった。同20日には、地検トップの検事正や次席検事、特捜部長らが2人から、田渕被告の取り調べについて報告を受けたが、映像を確認せず、山岸氏らの起訴を決めた。

指定弁護士は、事件の主任検事が山岸氏の逮捕前、田渕被告らに対し、「本当に悪いやつの処分をどうするかを含め、上級庁から中間報告を求められている」とメールを送っていたことも明かし、「本当に悪いやつ」は山岸氏を指すと主張した。

その後、証拠調べが行われ、指定弁護士が補充捜査で事情聴取した特捜部副部長と公判部検事の供述調書が読み上げられた。田渕被告について、特捜部副部長は「熱心な取り調べをしているという認識だった。度を越えた厳しさではなく、問題になるとは思っていなかった」、公判部検事も「どなった後は普通の取り調べをしており、揺さぶりの一環だと思った」と振り返っていた。

関係者のコメント

閉廷後、検察官役の指定弁護士と、初公判を傍聴した山岸氏、田渕被告の弁護団がそれぞれ記者会見した。指定弁護士は山口昌之弁護士ら刑事弁護の経験が豊富な3人。山口弁護士は「検察全体の問題。組織的な判断について立証する」と語った。山岸氏は「あの取り調べを特捜部の誰も問題視しなかったことに驚き、あきれた」と述べた。

弁護団の森直也弁護士は長年、取り調べの可視化に取り組んできた刑事弁護人。「取り調べでは一定程度、大きな声を出すことも想定され、不適正にも濃淡がある。刑法の適用は厳格でなければならない」と訴えた。

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過去の判例と専門家の見解

精神的苦痛を与える「陵虐」行為か否か、判断のポイントとなるのが「人格否定」の有無、程度だ。取り調べを巡り、直接的な暴力以外の行為で有罪となったケースがある。鹿児島県志布志町(現・志布志市)で2003年、県警の取調官が公職選挙法違反容疑で男性を取り調べた際、家族の名前を記した紙に「踏み字」させ、自白を強要した事件。特別公務員暴行陵虐罪で在宅起訴された取調官は公判で無罪を主張したが、08年の福岡地裁判決は「家族への尊敬や情愛を踏みにじられ、人格否定されるような感情を抱かせる」と指摘し、有罪とした。

元裁判官の矢村宏・北海学園大法務特任教授(刑事法)は「田渕被告の言動が人格攻撃と評価できるかどうかは、前後のやり取りや取調室の雰囲気、容疑者がどう感じていたかなどの事情を総合的に検討することになるだろう」と語る。

近年、検事の不適正な取り調べが相次いでおり、公判では、検察組織の問題がどこまで明らかになるかも注目される。横浜地検の検事は18年、犯人隠避教唆事件の容疑者の弁護士に対し、「お子ちゃま発想だったんでしょうね、あなたの弁護士観って」などと発言。21年には東京地検特捜部の堀木博司検事(57)(特別公務員暴行陵虐罪に問う付審判決定)が「黙秘を人のせいにするな」などと怒声を上げた。

検察内部では、これらの言動を「やり過ぎ」と捉える一方、検事個人の問題とみる幹部もいる。近畿大の辻本典央教授(刑事訴訟法)は「検察に自浄作用は期待できない。検察の取り調べについて正面から議論される重要な裁判になる」と語る。