介護現場で利用者やその家族らが従事者に理不尽な要求を突き付けるカスタマーハラスメント(カスハラ)が深刻な問題となっている。鳥取県は防止に向けた独自対策を進めているが、業界の風土も影響し、改善は容易ではない。
県内従事者の35.3%が被害を経験
県東部の介護老人保健施設に勤める男性(51)は、利用者のコップを机に置く際に持ち手の位置が少しずれていただけで「持ちやすいところに置け」とどなられた経験がある。また、家族が用意した服や靴を利用者が気に入らず、家族から「どうなっているんだ」と大声で八つ当たりされたこともあるという。
介護労働安定センター(東京)が2024年度に実施した実態調査によると、県内の従事者の35.3%が何らかのカスハラを受けたことがあると回答。全国の56.6%と比較すると低いが、男性は「体感としてはもっとある」と話す。
使命感が「我慢」を生む構造
介護現場でのカスハラに詳しい関西医科大の三木明子教授(精神保健看護学)は「使命感のある従事者が多く、我慢に慣れていて自分を軽視する傾向がある。この程度と受け止めたり、言っても何も変わらないと諦めていたりする」と指摘する。
鳥取市のケアマネジャーの女性(39)は、自宅を訪問する男性から「お風呂一緒に入らんか」と言われるなど、日常的にカスハラを受けているが、指摘したことはない。「カスハラと言ってしまえば、利用者が頼るところはなくなる。自分は我慢して目の前の課題を解決しなきゃという気持ちになる」と苦しい胸の内を語った。
別の介護施設の男性は「認知症や精神疾患を抱えるなど特殊な事情があるケースも多く、症状によるものなのかカスハラなのか、判断がつきづらい」と明かす。
県の対策と法改正
県は2025年度から従事者向けの啓発ポスターを作成。カスハラ被害の証拠取得のための録音・録画機器整備への補助金や、カスハラの定義や対応を学ぶ研修を実施している。2026年度中には具体的な事例を踏まえた防止マニュアルを作成する予定だ。
今年10月には改正労働施策総合推進法が施行され、従業員をカスハラから守るための対策が事業主に義務付けられる。
三木教授は「高齢化率も上がっていく中で、介護現場でのカスハラを減らすのは難しい。何が該当するのか、正しい理解をして、まずは我慢してはいけないという組織の風土を作っていくことが大事」とする。
一方、県東部の特別養護老人ホーム管理職の男性(68)は「給料が見合わず、現場は人が常に足りていない。1人の職員にかかる負担が増えることで、利用者の不満が増える悪循環に陥っている」と話し、国が定める介護報酬の引き上げを求める声もある。



