全国各地でクマの出没が相次ぐ中、青森県内で栽培される激辛唐辛子「ブートジョロキア」を使ったクマの忌避剤「熊をぼる」が注目を集めている。抜群の効果に加え、自然由来成分を使っているため環境保護につながるのが特長で、全国から注文が入る。製造会社「エコ・ワーク」(青森県五所川原市)の石岡広志代表(60)は「ヒトとクマが共存する手助けができれば」と語る。
津軽方言の名前と独自配合
「熊をぼる」とは、津軽方言で「クマを追い払う」という意味だ。炭を焼いた時に出る木酢液と、ブートジョロキアなどを独自配合した。使用すると唐辛子に含まれる辛み成分「カプサイシン」が漂い、クマを寄せ付けない。ブートジョロキアは同市の隣の中泊町の特産品で、同社も約3000株を自家栽培している。
ペットボトル上部に切れ込みを入れてつり下げ、中の液体からにおいを出すものと、ポーチに入れ持ち運ぶ固体の2種類があり、現在は沖縄県以外から引き合いがあるという。
注文急増の背景
熊をぼるを扱う通販サイトを運営する「壱岐産業」(仙台市)によると、2年ほど前から注文が増え始めた。昨年は企業からの注文が過去最多を記録。市街地でクマの出没が多発している今年は「毎日のように個人から注文が入る」という。
青森県外ヶ浜町出身の石岡さんは2019年、外ヶ浜漁業協同組合を退職し、エコ・ワークの前身となる青森県中泊町の忌避剤製造会社に入った。営業のため各地を歩く中で、農家を悩ませるクマの食害を知った。収穫直前のリンゴやトウモロコシが荒らされ「生活できない」と嘆く農家を見た。食害に憤慨し、当時の忌避剤は成分を強めにしていた。
自然を敬う心と共存への願い
ある時、秋田県の山奥で農業を営む高齢男性を訪ねた。クマによって畑は荒らされ、男性自身にも被害が及ぶ恐れがあった。しかし男性はこう話した。「山は元々クマの場所で、人が貸してもらっているだけ。畑を荒らされて迷惑しても、クマを殺したいとは思わない」
その言葉に目が覚めた。「自然を敬う気持ちを忘れちゃいけない」。利用者が忌避剤をポイ捨てしないよう、持ち帰り用のアルミパウチをつけた。土を汚さない特殊なアルコールを使い、カプサイシンの刺激が残りすぎないよう配合も調整した。「においがしている間は人間に山を貸してください」と動物たちに伝えているつもりだ。
近年では、山から市街地に出る「アーバンベア(都市型クマ)」が問題となっている。クマと人はどうしたら共存できるのか、解決策は見つかっていない。でも「すみ分けの方法は必ずあるはず。それが見つかるまで、熊をぼるが両者の橋渡しになってほしい」と願う。



