朝晴れエッセーの9月月間賞に、大阪府箕面市の大藪美枝さん(84)の「九死に一生」が選ばれた。焼夷弾が降り注ぐ中を祖母と防空壕に逃げ込んだ大阪大空襲や、堤防の決壊で大波にのまれたジェーン台風など、幼少期に死線をくぐった壮絶な体験が巧みに表現され、選考委員の目を引いた。
選考委員全員が評価
選考委員は作家の玉岡かおるさんと門井慶喜さん、細井伸彦・産経新聞大阪本社編集長が務めた。9月の投稿作品の中から、全員の評価が重なった作品として「九死に一生」と「四代目」が挙がり、最終的に月間賞は「九死に一生」に決定した。
門井さんは「話そのものにすごみがあります。前半は大阪大空襲、後半はジェーン台風から一命を取り留めた話ですが、どちらもリアルに伝わってくる」と評し、空襲が「火」、台風が「水」と対比されている点や、有馬の疎開から始まる平和な時期が挟まれる構成の巧みさを称賛した。
鮮明な記憶と表現力
玉岡さんは「短いエッセーの中にものすごい体験を詰め込んでいるのにひしめき感がありません。まるで芝居の書き割りの背景がさっと引き抜かれて場面が変わっていくように、視覚効果が絶大でした」とコメント。流されていく豚の鳴き声まで聞こえてくるようだと語った。
細井編集長は「特に豚に押し上げられながら流された場面は鮮明で、9歳の少女の記憶に克明に残っていたんだろうなと思いました」と感想を述べた。
受賞作の背景
大藪さんは「つないだ命に感謝した人生」と題したコメントを寄せ、「命を大切にせなあかん」と祖母や母から言われて育ったと振り返る。当時3歳で経験した大阪大空襲は祖母から語り継がれた話だが、焼け野原となった当時の雰囲気はなんとなく覚えているという。
ジェーン台風では母と引き離され、豚の背にしがみついて生き延びた。翌朝、避難所の小学校で再会した母に泣きながらきつく抱きしめられた瞬間は忘れられないと話す。「もらった命の恩返しがしたい」と、6年前から介護施設でのボランティアを続けており、お風呂上がりの利用者の体を拭いたり、食堂の机を消毒したりする日々に充実感を感じている。