叱るより褒める指導は脳に効果的、神経可塑性を高め学習意欲向上
叱るより褒める指導が脳に効果的、神経可塑性を高める

スポーツの世界では、かつて「厳しい指導で選手は強くなる」という考え方が常識的に受け入れられてきました。しかし、令和の時代になり体罰やハラスメントが問題となり、指導のあり方が大きく見直されてきています。どのようにすれば人を成長させる指導ができるのか。その答えは、脳の働きから考えることができます。

神経可塑性と成功体験の関係

脳には「神経可塑性」という重要な性質があります。これは、経験や学習によって神経回路が変化し、より効率的な働きをするようになる能力です。スポーツの技術が向上するのも、単に筋肉が鍛えられるからではありません。繰り返し練習することで、脳の運動回路が組み替えられ、正確で素早い動作が身についていくのです。

この神経可塑性を高めるうえで重要なのが、成功体験です。人は褒められたり認められたりすると、脳内でドーパミンが分泌されます。ドーパミンは意欲を高めるだけでなく、「この行動はうまくいった」という情報を脳に記憶させ、次の挑戦につなげる働きがあります。つまり、褒めることは単なる気分の問題ではなく、脳の学習機能や学習意欲を高めるのに合理的な方法なのです。

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恐怖による指導が脳に与える悪影響

一方で、強く叱ったり恐怖を与える指導は、脳に大きなストレスを与えます。まず反応するのは扁桃体です。扁桃体は危険や不安を感じ取る役割を担っており、過剰な刺激を受けると身体は防御反応を起こします。その結果、ストレスホルモンであるコルチゾールが増加し、記憶を担う海馬や、判断力・創造性を司る前頭前野の働きが低下します。

激しく叱られる環境では、人は「どう改善するか」よりも「どう失敗を避けるか」に意識が向きます。その結果、挑戦する気持ちが失われ、失敗から学ぶ機会も減ってしまいます。反対に、安心して挑戦できる環境では、試行錯誤を繰り返すことができ、脳の神経回路はより柔軟に発達していきます。

リハビリで実感する脳の変化

日常の診療においても、神経可塑性を実感することがあります。脳梗塞や脳出血などで言語や運動の機能が失われた患者さんでも、リハビリを続けることで新たな神経回路が形成され、失われた機能を補うことがあります。脳は年齢に関係なく、環境や経験によって変化する力を持っているのです。

もちろん、褒めることは何でも肯定することだけではありません。相手の努力や良い部分を認めたうえで、改善すべき点を具体的に伝えることも大切です。人を育てるということは、その人の脳がより良く変化できる環境を整えることといえます。

「褒めて伸ばす」、すなわち「恐怖ではなく、安心と信頼で可能性を引き出す」という考え方は、スポーツだけでなく、教育や家庭、そして社会全体にも通じる大切な方法論といえます。

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