俳優の松本若菜が主演を務め、佐野勇斗が共演するTBS系火曜ドラマ『君の好きは無敵』(毎週火曜 後10:00)。作中に登場するキャラクター・チュチュチュエラが生まれた場所、“デザイン瀬尾”。草壁や瀬尾らが普段仕事をしているその空間には、“かわいい”が随所にちりばめられている。
美術プロデューサーの藤本祐基さん、美術デザイナーの小佐井あかねさん、キャラクターデザインを担当した三浦のどかさんに、本作の美術へのこだわりや、劇中に登場するキャラクターたちが生まれるまでの舞台裏を聞いた。
“デザイン瀬尾”に宿る、瀬尾と門戸の“かわいい”の歴史
本作の美術は、セットを中心に担当する美術チームと、三浦さんが進めるキャラクターデザインチームという二つの軸で進められた。その中でも、三浦さんが生み出すキャラクターは作品のカラーを大きく担う存在だったため、藤本さんはこう話す。
「三浦さんが作るキャラクターが、このドラマのカラーといいますか、大きな割合を占めると思っていたので、どういうキャラクターになるのか、三浦さんとの打ち合わせにも帯同して雰囲気を見ながら、そのイメージを美術チームでも共有していました」
そのうえで、美術チームが特にこだわったのが、“デザイン瀬尾”のセットだ。「いわゆるキャラクターが好きな人物が作る部屋というより、瀬尾にはデザイナーという側面もある。そういうことも考えながら、みんなでいろいろ案を出し合って、あの形になっていきました」(藤本さん)
小佐井さんも、“デザイン瀬尾”のセットには瀬尾のキャラクターだけでなく、彼の過去まで感じられるような工夫を施したという。
「私はセットを担当しました。ぬいぐるみや、かわいいものが好きなデザイナーの家というだけではなくて、“おばあちゃん(白石加代子演じる門戸鞠子)から引き継いだ家”という設定があったので、瀬尾がかわいいものを好きになった歴史を感じられるようなセットにしたいと思って、今のようなレトロ寄りの美術になりました」
そのため、セット内に並ぶぬいぐるみも、ただ“かわいいもの”を集めたわけではない。小道具スタッフがヴィンテージ感のあるものを集め、現在のキャラクターと共存させることで、時の流れが刻まれた空間を作り上げた。
「少し違和感のある(過去の)ものと、今あるものが共存しているのも、時代を感じるところにつながるのかなと思っています。そこに三浦さんが描いたチュエラなど瀬尾さんのキャラクターが加わって、面白い空間になったと思います」(藤本さん)
アナログもデジタルも。瀬尾の“デザイナーらしさ”を映すデスク
第7話で門戸が柱に描かれた絵を見つめる場面にも、そうした細かな設定が生かされていた。
「あの絵は、瀬尾とおばあちゃんが一緒になって、小さい頃に落書きしていたという設定です。古いベリーちゃんみたいなイラストが描いてあったり、柱に身長のメモが残っていたり。2人で過ごした時間みたいなものが、ところどころに残されているセットになっています」(小佐井さん)
ちなみに、柱は、もともと劇中で映る予定があったわけではなかったという。「門戸さんが柱を見ているシーンで初めて映るんです。今まで絵は描いていなかったんですけど、絵が描いてある柱がいい位置になかったので、あのシーンに合わせて描き足しました」(三浦さん)
“デザイン瀬尾”は、瀬尾の家であり、彼がキャラクターデザイナーとして仕事をする場所でもある。そのため、卓上にはキャラクターを生み出すための道具も用意された。
「最初、瀬尾さんはもっとアナログな感じかなというイメージを持っていたのですが、そこはいい塩梅(あんばい)にしようとなって」(藤本さん)
三浦さんも、瀬尾の設定を踏まえて、アナログとデジタルの両方を使えるデザイナーとして道具を揃えてもらったと話す。
「MERRYのデザイナーだったことを思えば、きっとPCでデザインしていたんだろうなというのと、瀬尾が芸大出身で絵をやっていて、デッサンもちゃんとできる人というのが役柄の設定資料に書いてあったんです。なので、画材などもいろいろと充実させて、アナログもできるし、デジタルもできる人に見える道具を用意してもらいました」
“チュエラ”に大苦戦! キャラクターグッズ制作の舞台裏
劇中では、瀬尾が生み出したチュエラが完成し、商品として世に出ていく様が描かれる。実際にぬいぐるみやグッズを形にしていく過程では、ドラマの撮影スケジュールと商品制作の時間軸の違いに、さまざまな工夫が必要だったという。
「ぬいぐるみや着ぐるみは、『この納期で出せます』とお話ししていても、実際撮影のスケジュールと合わせていくのはなかなか大変で。でも、現実に販売するぬいぐるみを1〜2か月で作るというのは、やはり難しいことなんですよね。いろいろな工程を省きながら、なんとか撮影スケジュールに近いスケジュールで進めていったんですけど、実際の商品ができるまでには、思っていた以上に時間がかかるんだなと感じました」(藤本さん)
その苦労は、第4話で描かれた「チュエラのぬいぐるみのサンプルが届いたら、首が長かった」というエピソードにも重なる。実際に美術チームに届いたシニカルモルコのぬいぐるみ、着ぐるみが、ともに頭が大きすぎたこともあったという。
装飾チームが自らグッズを作ることも。「あまり映っていないかもしれないですが、キャラクターボールペンみたいなものも、プラバンにイラストを印刷して小さくして、レジンを塗ってぷっくりさせて、それをボールペンに貼り付けて袋に入れるという、内職みたいなこともしていました」(三浦さん)
さらに、耳がついたモルコのティッシュケースや、Tシャツやバッグにはアイロンプリントが施され、三浦さんいわく「事務所がグッズ工場みたいになっていました」とのこと。
“1ミリ”の違いが印象を変える! キャラクターを立体化する難しさ
パペットや着ぐるみの制作でも、三浦さんの存在は大きかった。立体物を発注する際、ベリーグッドベリーの帽子の位置がデザイン画だけでは分かりにくかったため、三浦さんは一度、粘土で立体を作ってみたという。それをもとに、人形劇団ひとみ座とのパペット制作の打ち合わせにも参加した。
「三浦さんと一緒に、僕らも打ち合わせに行って。これが外部のデザイナーさんだったら、なかなかないのですが、(みんなで参加したことで)一緒に生地を決めることができました」(藤本さん)
ただ、立体物ならではの難しさもあった。「発注するメーカーによって形が変わるから、同じものを目指しているはずなんですけど、なかなか難しいですね」(藤本さん)
その難しさは、第3話で廣瀬高章(藤井隆)が、チュエラの目の位置が1ミリずれていることに違和感を覚える場面にもつながっている。
「鼻と目の位置関係がちょっとずれているだけだったんですけど、でも顔がちょっと違うように見えて。それで修正してもらうと、顔が変わるんです」(藤本さん)
平面のイラストを立体にすることで、わずかな違いが大きな印象の差になってしまう。「自分で描いていても同じように描けないので、すごく気をつけています」(三浦さん)「少し起毛の部分が目にかぶっているだけでも、(印象が)変わるくらいなので。そりゃ、完成まで時間がかかるよなと思います」(藤本さん)
“かわいい”を生み出す、その先に。キャラクターが届けたもの
MERRYの社長室やオフィス内にあるパネルのキャラクターは、美術チームのスタッフが総出で描いた。
「みんな、1体ずつ描いてみようかとなったのですが、三浦さんみたいな感じにならないので。やはり、ちゃんと考えて作ってくれているんだなというのを実感しました」(藤本さん)
三浦さんが生み出したキャラクターは、美術スタッフや小道具、装飾、パペット、グッズなど、さまざまな人の手を経て、少しずつ形を変えながら作品の中へ広がっていった。最後に、“ただ支える”というチュエラのコンセプトにちなみ、本作の美術を手がける中で、キャラクターたちに支えられたと感じた瞬間について聞いた。
小佐井さんは、「出来上がってくるものは、みんな『かわいい』と言っています」と笑顔で話す。三浦さんが特に感動したのは、エンディングのパペットだった。
「エンディングのパペット操作を、ひとみ座さんが実際に来てくださってやってもらったときに、すごく感動しました。いろいろな人たちが、自分が考えたキャラクターを立体にして、動かしてくれて、撮ってくれて。作ったものを『かわいい』と言ってもらえることがすごくうれしいと思いましたし、やって良かったなって。支えになりました」
藤本さんも、スタッフが作り上げたキャラクターが、思いがけない形で多くの人に届いていることを実感している。
「僕らが思っている以上に、見てくださっている人って、キャラクターそのものにいろいろ意見というか感情を持ってくださっていて。僕の母親も普段あまりそういうことを言わないのですが、『チュエラがすごくかわいい』『ぬいぐるみって、どこで売っていたりするの?』みたいなことを言っていて。自分が作ったことを全く知らない人が見て、『かわいい』と言ってくれる。すごくいいなと思います。自分が『かわいい』と思って描いたものを、周りの人も同じように思ってくれるって、なかなかないことなので」
三浦さんが生み出した“かわいい”は、たくさんの人の手を経て形になり、今では視聴者のもとにも届いている。チュエラたちの存在そのものが、作り手たちにとっても大きな支えになっているようだ。(編集:岩本和樹)



