インフルとコロナのワクチン「片方だけ」でいい?専門医が語る冬の備え
インフルとコロナのワクチン「片方だけ」でいい?専門医が解説

今年はインフルエンザの流行シーズン入りが昨年より1カ月早く、すでに感染が広がっている。近年はインフルエンザに加え、新型コロナのワクチンも高齢者などの定期接種の対象となり、どう備えるかを考える機会が増えた。一方で、「両方打つのはめんどくさい」「副反応が出るのが嫌」「片方打つだけで十分なのでは?」といった思いも生まれる。健康な人はもちろんのこと、基礎疾患を持つ人や高齢者の場合は重症化するリスクが高いゆえ注意が必要だ。埼玉医科大学国際医療センターの感染症専門医・関雅文先生に、家族の健康のために何に注意して、どんな対策をすべきか聞いた。

インフルエンザと新型コロナの重症化リスク

厚生労働省の発表によると、今年は昨年より1カ月以上早く流行シーズンに入り、現在の集計方法に変更された1999年以降、過去2番目に早い流行期入りだったという。関東を中心に感染者が急増し、学級閉鎖も相次ぐ事態となっている。

ウイルスは寒さと乾燥を好むから夏には流行らないというイメージがあるが、感染症専門医の関雅文先生によると、「インフルエンザのウイルスは(これまでの亜熱帯地域がそうであったように、)比較的高温で、湿度が高い気候でも活性が上がるということがわかっている」という。流行は決して秋から冬に限ったことではない。

ただし、早期流行しているからといってピークが早まるわけではなく、秋や冬は夏以上に危険になるので注意が必要だという。インフルエンザは寒くて乾燥する気候をより好み、これからの季節はさらに広がりやすくなるためだ。またウイルスを受け取る人間の方も、秋冬は気圧や気温の変化によって全身の循環が落ちるという。

インフルエンザは、鼻やのど、気管、肺などの細胞の表面に多数存在する分子がウイルスの受容体となり、鼻やのどから入ったウイルスが結合することで体内へと侵入する。高熱、関節痛などが主な症状だ。子どもの方が免疫が過剰に反応しやすく、熱などの症状が激しく出るインフルエンザだが、高齢者にとっての脅威は侮れないと、先生は警鐘を鳴らす。

「若い人のほうが免疫細胞がより反応するので高熱が出やすいのですが、やはり最も注意していただきたいのは高齢者。熱が出にくいので、軽度と甘く見ているうちにウイルスが体内に増えて重症化してしまうことも増えています。とくに高齢者の場合、免疫細胞が身体の中で活性化せず、免疫機能自体が落ちてしまうため、かかりやすい状態になるといえます」

一方で、気を付けるべきはインフルエンザだけではない。新型コロナの脅威も引き続き続いていると関先生は言う。

「『新型コロナってまだ流行しているの?』と聞かれることがありますが、まだまだ新型コロナの脅威は続いています。死亡者数は今なお年間2万人に達し、10倍近く発症者が多いはずのインフルエンザと比べて実は3倍以上多いことがわかっています」

そもそも、新型コロナとインフルエンザを「同じようなもの」と捉えている人も多いかもしれないが、2つは全く別の感染症。コロナ禍、「高齢者は重症化する」と言われてきたが、新型コロナの場合、子どもはほぼ無症状で、高齢者と基礎疾患がある人が罹りやすく重症化しやすい。その理由は新型コロナが特に血管にダメージを与えるウイルスであるため。高血圧など血管が弱っている人が罹りやすく、重症化しやすいそうだ。

「新型コロナウイルスは、出始めた頃に比べて今は喉の痛みなどの症状は当初よりマイルドなウイルスになってきてはいますが、血管を痛めつけるウイルスであることには変わりはありません。高齢者、あるいは透析を受けている方など基礎疾患を持っている方は、脳の血管を痛めつけられたら脳梗塞に、心臓の血管なら心筋梗塞や心不全に、腎臓の血管なら腎不全になり、救急搬送されることも少なくありません」

ワクチンの役割と同時接種の考え方

ではどうしたら、感染症のリスクを下げることができるのか。「ワクチンを打つことが重要」と先生は断言する。さらに「片方だけ打っておけばいい」と考える人もいるが、そうした疑問を関先生にぶつけると、きっぱりとした答えが返ってきた。

「抗原性がまったく違うので、両方それぞれ打たなければなりませんし、どちらかを打っておけば罹ったとしても軽くなるということも基本的には考えられません」

しかし、実際のところ「ワクチンを打ったのに罹ってしまった」という声も聞く。それなら打っても意味がないのでは、と感じる人もいるかもしれないが、関先生によると、ワクチンの役割は感染を防ぐことだけではないという。

「一般にインフルエンザワクチンは、重症化を防ぐことを主な目的としています。死亡リスク、次いで入院リスクを減らす効果は明らかですが、発症リスクを減らすところまでは難しいかもしれません。ただ、ワクチンを打つことで重症化しにくくなることは立証されていますので、命を守るために打っていただきたいと思います。

一方、新型コロナワクチンのなかでも一般的となったmRNAワクチンは、発症リスクを減らす効果も確認されています。重症化を防ぐのはもちろん、そもそも発症を抑える効果があるというのは、医師としても目を見張るものがあります」

コロナ禍で話題になったようにワクチンの副反応を心配する人もいるだろう。現状はどうなっているのか? 先生によると、副反応には全身症状と局所症状の2つがあり、前者の代表は発熱のほか、倦怠感、関節痛など。コロナ禍、倦怠感がひどくて会社を2〜3日休まなければいけなかったという人も多かったが、関先生によると、「今は免疫を強めるための物質の含有量などが工夫され、かなり改善された」。一方の局所症状はワクチンを打った箇所の痛みや赤く腫れあがったり、痒みが出る発赤腫脹、血管炎などで、改良により「いずれも現在はかなり減っていることが明らかになっている」という。

インフルエンザと新型コロナ、どちらのワクチンも打たなければならないとなると、「インフルエンザと新型コロナのワクチンは両方一度に打つとどうなるのか?」という疑問も生まれる。関先生は、一度に両方のワクチンを打つことで、副反応の辛さが軽減する場合もあると話す。

「副反応は片方ずつ打っても両方同時に打っても変わりません。一部のデータでは、両方打った場合の方が、副反応が弱くなるとも言われています。一度に2つのワクチンを打つ場合は、副反応が弱くなるかならないかに関わらず、二度辛い思いを経験するよりも一度で副反応が済むほうがよい、という考え方もできるかもしれませんね」

ただし、誰もが同じように接種できるわけではない。アレルギーや持病がある人は注意が必要だと、関先生は話す。

「インフルエンザワクチンは卵を利用し生成したものを使用しているため、卵アレルギーのある方は稀に症状が出ることもあります。またコロナなど他のワクチンを含めて、例えばがん治療を受けている方や関節リウマチなどの方は進行度や治療薬の使用スケジュールによって打つ時期の調整が必要になる場合がありますので、糖尿病などの基礎疾患を持っている人はかかりつけ医に相談することをお薦めします」

このように、十分な対策が必要なインフルエンザや新型コロナといった感染症。関先生は、「基礎疾患、服用中の薬、かかりつけ医、直近の予防接種の状況、予防接種の公費負担・助成の対象に関する自治体からの案内」の5つを確認したうえで予防接種に行くことを推奨している。

家族で共有したい備えと調査結果

oricon MEが調査した、全国47都道府県、4,985人を対象とした〈親の健康・冬の備えに関する子世代の意識・対話実態調査〉では、予防接種の公費負担・助成制度について、「制度があり、親が対象かどうかまで知っている」人は20.9%と少数の結果になった。高齢者の中には自身で情報を得て、確認を行うのが難しい人も多いかもしれない。そのため、家族がコミュニケーションをとることが重要になる。しかし、「冬の感染症が心配」と応えた人は65.2%にも上るにもかかわらず、そのうち78.0%は親と予防接種の話をしたことがないことも明らかになった。

この結果を受けて、先生は「高齢者はインフルエンザや新型コロナが今なお流行しており、重症化して命を落としている人がいることや、ワクチンの存在そのものについてご存じないケースが多々あるので、家族間で積極的に情報共有してほしい」と訴える。

「ワクチンの意義は高齢者や基礎疾患がある方ほど大きくなります。高齢な親御さんたちを守るためにも、普段からフランクに体調に変わりないかと聞くことに加えて、感染のリスクやワクチンの有効性について話をするとともに、ワクチンの接種歴や定期接種の個別通知が来ているかの確認もしていただきたいと思います」

例年より早くインフルエンザの流行が始まった今年の日本だが、「今は過渡期。新型コロナが落ち着いてきたので、インフルエンザが息を吹き返して強くなった状態」と先生。この2大感染症は「どちらかが増えるとどちらかが大人しくなり、どちらかが大人しくなるとどちらかが増えるというふうにして存在している」とのこと。

“コロナ禍”という言葉を聞くと、「あの頃は大変だったなあ」と過去形に感じてしまう人もいるかもしれないが、ウイルスに対して注意が必要な状況は続いている。異常気象など今年の夏は「危機管理」という言葉があちこちで聞かれたが、これからの季節は新型コロナやインフルエンザに対する危機管理も怠りなく行いたい。