9月1日は「防災の日」。熊本地震の被災者への心のケアに当たる「災害派遣精神医療チーム」(DPAT)の事務局次長で医師の五明佐也香さんが、被災した家族や知人に寄り添うときの心がけについて助言した。「励ましが重荷になることもあります。まずは悲しみや怒り、不安など、相手の感情をそのまま受け止めることが大切です」と語る。
励ましの言葉が相手を追い詰めることも
精神保健指定医で救急科専門医でもある五明さんは8月1、2日、熊本県防災センター(熊本市)を拠点に、DPAT隊員の活動調整を担った。被災者の聞き取りを行った隊員のもとには、「地震の恐怖で眠れない」「周囲の混乱に疲弊して涙が出る」といった不安が寄せられたという。また、もともと精神疾患のある被災者からは「気持ちが揺らぎやすい」「クリニックに行けない」「薬が手元にない」といった切実な訴えがあった。
言葉をかけるときも、励ますつもりで発した「早く元気になって」「亡くなった人の分も生きよう」という言い方が、かえって相手を追い詰めることがある。「そんなふうに思えない」「つらさを否定された」と感じさせてしまうためだ。「もっと安全な場所やホテルに避難すればいいのに」などと、当事者ではない立場から価値観を押しつけるのは最も避けたいことの一つだ。はためには避難所や車中泊より快適に見えても、「『お墓から離れたくない』『なじみのない地域で生活するのが恐ろしい』といった強い愛着や事情がある場合もあります」(五明さん)。
黙り込んだときは無理に言葉を促さない
相手の選択を否定せず、抱えている気持ちにそのまま耳を傾けることが、関わりの出発点となる。話の途中で相手が黙り込んだときは、無理に言葉を促さない。相手の発言の一部をそのまま繰り返したり、話す速さに合わせたりすることで、相手が「自分のペースで話してよいのだ」と安心しやすくなる。
五明さんによると、発災から1カ月を過ぎると、被災者の心理状況は「幻滅期」と呼ばれる時期に入る。現実の被害や復興の困難さと向き合うことで、喪失感などが表面化していく。特に自宅や避難所にこもりがちな人は、孤立化のリスクが高まる。
「何か手伝えることはありますか」の声かけが孤立防ぐ
平成28年熊本地震を含めた被災地支援の経験から、五明さんは「この時期になると、前向きに何かを行う気力を失ってしまったり、お酒の量が増えてしまったりする様子も見られた。そうしたときこそ、『何か手伝えることはありますか』といったさりげない声かけが孤立を防ぐきっかけになる」と話す。
「人によって言葉の受け止め方は変わるため、一概に『正解』の対応はありません。ときには言葉をかけず、ただ近くにいること自体が支えになることもあります」焦らず、押しつけず、そばに居続ける。そうした関わりが、安心感につながるのかもしれない。



