獣医師のいない動物園から、一頭のカリフォルニアアシカの病理解剖が依頼された。17歳のメスで、皮膚炎を患っていたが治らず死亡したという。遺体はトロ舟に乗せられ、中村進一獣医師のいる大学に運び込まれた。
皮膚炎と思われた症状の裏に潜む寄生虫
解剖の結果、皮膚炎は表面的な症状に過ぎず、死因は心臓に寄生するそうめんのような生物によるものだった。この寄生虫は「海の動物の心臓に寄生する」ことで知られ、人間にも感染する可能性がある病原体ではないかと懸念された。
カリフォルニアアシカは北東太平洋沿岸に生息し、動物園や水族館で人気のショーに出演する。知能が高く、拍手や輪くぐりなどの芸を覚える。しかし、その健康管理には専門的な獣医師の存在が不可欠だ。
動物園が抱える獣医師不在の深刻度
今回のケースは、獣医師が常駐しない動物園の実態を浮き彫りにした。中村獣医師は「皮膚炎と軽く見られていたが、実際は寄生虫が心臓を蝕んでいた。早期発見できれば治療の可能性もあった」と指摘する。
動物園では病理解剖設備もなく、外部の専門家に依頼せざるを得ない。このような状況は全国的に見られ、動物福祉の観点からも問題視されている。
常駐が無理でもつながりを
すべての動物園に常勤の獣医師を配置するのは難しいが、大学や専門機関との連携を強化することで、適切な診断や治療が可能になる。中村氏は「動物園と獣医病理医のネットワーク構築が急務」と訴える。
アシカの死は、単なる一頭の死亡ではなく、動物園が抱える構造的な問題を象徴している。今後、飼育動物の健康管理のあり方が問われることになる。



