島根県益田市で昨年11月に開かれた県主催のイベント「里親制度普及啓発映画会」で、20歳代の男性が登壇した。県里親会会長の関口晃司さん(55)と妻英子さん(64)は客席から見守った。
夫妻は約10年前から6年間、里親として益田市の自宅でこの男性を育てた。男性はそのことを語り、「ここ(関口さんの自宅)が実家だと思っています」と力を込めた。夫妻は「里親としての向き合い方は間違っていなかったのかな」とほほえむ。
研修で気持ちが変わった
夫妻はともに再婚で、二人の間にできた子供はいない。英子さんの長女が高校生だった2009年、関口さんが「里親をやってみないか」と英子さんに提案した。子育ても一段落したのでやってみようか、という程度の動機だった。
だが、英子さんは「人様の子の人生を背負うのは簡単ではない」と反対した。関口さんは「付いてくるだけでいいから」と、里親登録を受けるための第一段階となる基礎研修の受講を申し込んだ。英子さんは気乗りしないまま、研修を受けた。
研修を終えた英子さんの気持ちは変わった。虐待や貧困など様々な要因で家族と暮らせない子供の実態を知った。英子さん自身、複雑な家庭環境で育った。「だからこそ、子供たちの気持ちに寄り添えるのではないか」と感じたという。
初めての里子との出会い
夫妻で里親登録に必要な研修を受け、2010年頃に登録された。初めて里子を迎えたのは2011年。思春期の女の子だった。接し方は手探りで、当時は英子さんの長女も家にいた。
夫妻は長女に対するのと同様、我が子のように女の子と向き合った。女の子は食べることが大好きで、「ご飯は何?」と毎日聞かれ、英子さんの手料理を「おいしい」と喜んで食べた。女の子の話にしっかり耳を傾け、うなずいた。長女とも仲良くなった。
里子に迎えて1か月もたたないころ、英子さんは女の子の担任との面談で「学校生活が明るい方向に変わった」と聞かされた。「どんな魔法ですか」と尋ねられたという。関口さんは「里親を続ける上で、自信になった」と振り返る。
女の子は1年余り一緒に暮らした後、実母のもとに行った。その後も継続して里子を預かり、これまでに14人を受け入れた。離れた後も交流が続く子もいる。昨秋の映画会で登壇した男性も時々、自宅に立ち寄る。
ファミリーホームを開設
里子への接し方を巡り、夫妻の意見がぶつかることもあった。そんな時は納得するまで話し合い、先に進んだ。何げない言葉で里子の心を傷つけてしまった失敗もある。夫妻で親子の関係性を深める研修を受けに行くなど研さんに努めた。
2018年には自宅を改修し、5~6人の里子と一緒に暮らせるファミリーホーム「カルマーレ」を開設。英子さんが施設長を務め、現在は4人を預かる。2か月程度の一時保護や1週間程度の短期滞在も受け入れる。英子さんは「自分の足りないことに気がつき、学びたいと意欲がわく。私の生きがい」と話す。
関口さんは2022年、県里親会会長に就き、里親制度の啓発に力を入れる。「私たちは日々、子供に育てられている。人生を豊かにしてくれる。自分の経験や正しい知識を伝え、里親を志す人を増やしたい」と語る。
ファミリーホーム、全国に505か所
ファミリーホームは、2008年の児童福祉法改正で「小規模住居型児童養育事業」として法制化された。様々な理由で家族と暮らせない子供を家庭と同様の環境で育てることを目的とし、5~6人の子供が共同生活する。法的には里親とは別の枠組みだが、目的は同じだ。
ホームの養育者となるには、養育里親の経験か児童養護関連施設での勤務経験が必須。子供の人数に応じ、公費から金銭が支給される。全国に505か所あり、県内はカルマーレを含めて2か所。